第22話 捜索隊結成
「……こんな、ふざけてるだろ」
木葉に貰ったデータを一通り確認し終えて、光希は深く息を吐いた。ふざけている、そんな感想しか言えないほどに天宮楓の今までの生活は過酷なものだった。過酷、という言葉でさえ軽すぎる。
いつの間にか真っ暗になっていた部屋の中では開いたノートパソコンの光だけが眩しい。画面には楓についての報告書ばかりが並んでいる。そう、報告書だ。
天宮楓の現状をすべて知りながら、天宮家は楓を放置した。生活に干渉することはできないとばかりに。
「なんなんだよ、一体」
そろそろ同室の涼も帰って来る頃合いかと、ノートパソコンだけは閉じて暗い天井を仰いだ。電気をつける気力も起こらなかった。どう、この事実を受け止めていいのか分からなくて、ただ目を閉じる。
「光希、電気つけないの?」
ぱちん。扉横の壁にある照明のスイッチが押される音がする。躊躇うように明かりがついて、光希は目を開けた。
「疲れた? 部活の勧誘もすごかったって聞いたよ」
「それは、おまえもだろ」
あはは、と軽く笑いながら涼は鞄を床に置いて座り込んだ。いつもは自分の机に鞄を置いてから座るので、随分と疲れているようだ。入学試験次席の涼も、やはり光希と同じく部活動による激しい勧誘に巻き込まれていたようだ。
「……でも、光希の関心はそこじゃないね? 天宮さんが大勢の生徒を倒したって。見ていた人たちは、天宮さんが刀に手をかけた瞬間に奇妙な様子の生徒たちに襲われていた、って言っているよ。風紀委員会によれば、暗示術式が行使されていた可能性があるって」
「ああ、そうらしいな」
返事をしながら、光希の心は全く違う場所にあった。一刻も早く楓を探さねばと焦るのに、光希には探すための力がない。待つしかない。十本家に数えられる相川の人間ではあっても、家の力を使うことは光希にはできない。白くなるほど強く拳を握る。痛みでは焦りは消せないと知っていても、強く強く。
「もしかして、天宮さんに何かあった?」
「おまえには関係ないだろ」
「関係あるよ。天宮さんは友達だから。少なくとも僕はそのつもりでいる。それに、夏美や笹本さん、夕真も心配していたよ」
ばんばん、と唐突に扉が乱暴に叩かれる音がした。涼が立ち上がって扉を開けると、夕姫と夕真、夏美、それからなぜか霞浦亜麻音が転がり込んできた。そして、最後に木葉が優雅に扉を閉めていく。寮の部屋は二人部屋で、二段ベッドと机が二つ並んで少し余るくらいの広さだ。というのに、五人もやってきてはぎゅうぎゅう詰めどころの話ではない。
「ここ、男子寮だぞ……」
光希は思わずツッコんだ。見事な縦ロールの髪を払って亜麻音は、
さて気を取り直して、なんとか部屋に収まった七人。光希は木葉に鋭い視線を向けた。説明求む、だ。
「どこから話したものかしらねえ」
「あのね、光希が血相を変えて楓を探しに行ってたから、私たちも楓を探すことにしたんだ。でも、なかなか見つけられなくて。ご飯の時間になっても楓は帰ってこないから、木葉なら何か知ってるんじゃないかって思って木葉を探すことにして──」
「そうそう。それで夕真も巻き込んで一緒に探してこの時間になってやっと捕まえたっていうか!」
夕姫の言葉に夕真がこくこくと頷いている。
「それじゃあ、霞浦さんは何の繋がりでここに?」
困惑しているはずだが、涼はそれをおくびにも出さない。
「わたくし、あの、今日の楓さんの戦いっぷりを見たのです」
亜麻音は目を伏せて頬に手を当てた。いや、なぜそこで顔を赤らめる。
「一目惚れでしたわ。あんなにお強かっただなんて……。無能でありながらも、あのような強さをお持ちだったなんて! ああ! わたくし、己の行いを恥じましたの。楓さんが、あんまりにも素敵で、気高くて。生徒たちを凛々しくあしらう様は、まるで荒野に一輪の百合が咲いたようで──」
くねくねとしながら楓について語り始めたお嬢様に全員目が泳いでいた。光希はその場を代表して発言する。
「──本題に入ってくれるか?」
「あ、ええ、そうでしたわね。楓さんに一目惚れをしたわたくしは楓さんに会いに行こうと思ったのですわ。ですが、見当たらなくて。それで、楓さんと同室、羨ましいですわ、あ、いえ、その下田さんにお伺いしようと思って探していたのです」
「……とまあ、そんな感じよ。結局みんな集まってしまったから、せっかくだしあんたたちの所に連れてきたというわけ」
疲れたわと肩を竦める木葉。
「なんでだよ!?」
「手勢が足りなかったから、ちょうど良いかと思ったのよ。幸い家を動かす力を持っている人もいることだし」
それを言われては弱い。相川には他の本家と同じように独自に動けるような機関を持っているが、光希の立場は不安定で命令権がないのだ。
「二人とも何こそこそ話してるんだー? 早く色々教えてくれよー」
夕真に呼ばれ、光希は溜息を噛み殺した。
「とりあえず、話を始めましょうか。
「あれだよね、天宮家を敵視している反社会的組織だよね?」
「ええ、そうよ、夏美。楓は彼らに狙われていたの」
「そうか……、楓が天宮の名前を持っていて、しかも霊力を持たないから標的にされたんだね」
「で、言ってしまえば、楓は奴らに攫われたの。犯人の目星もついているわ。一年C組の桜木花蓮。彼女は
亜麻音が勢いよく立ち上がった。桜木花蓮を従者として側に置いていた亜麻音にとっては青天の霹靂のような話だろう。何しろ花蓮はおどおどと亜麻音の後ろに付き従っていたのだから。
「そんな、花蓮がっ!?」
「これはほとんど間違いないわ。
「……ありえませんわ。花蓮にはあの規模の術式は扱えないはずですわ」
「けれど、実力を隠していた。あるいは、何らかの方法で能力を引き上げていた可能性は否めないわ」
そう言われてしまえば返す言葉もなく、亜麻音は悔しげに唇を噛んで沈黙する。
「要するに、あれだろ。天宮さんと桜木さんを全力で大捜索すればいいってことだろ?」
「ええ。夕真の言う通りよ。あんたたちには二人を探す手伝いをしてほしいの。でも、あまり
「だけど、〝友達〟を探す、っていう名目ならそれなりに動ける……。そういうことだね?」
ええ、と木葉は我が意を得たりと頷いて、夏美に向かって笑う。
「なるほど。おっけー。夕真、家に連絡するよ。少し手勢を貸してもらえるよう交渉するんだから」
「おう」
笹本は十本家には属さないものの、それなりの名家だ。笹本家の嫡子である二人には当然取り得る選択肢だった。夏美は安良城家の当主として権限を存分に振るえる立場なので、
「どうする? 光希」
「せめて捜索範囲を狭めたいな。何か、あればいいんだが……」
数秒腕を組んで固まっていた涼の目が閃く。
「桜木さんの行動をもう少し洗ってみよう。風紀委員会には確か、監視映像の閲覧権限があるって聞いたよ」
「分かった。風紀委員会本部に向かえばいいんだな?」
「うん。今は十八時くらいだから、まだ開いていると思う」
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