第29話 地球観測部 vs. 演劇部!? さくら争奪戦!(前編)
私の声は貴方に届いていますか?
今日は地球観測部以外の高校の部活についてお話します。
私たちの地域は日本を模倣しているため、高校の部活も日本でおなじみのものが色々あります。ふるるちゃん実家お手製の茶葉が提供される本格茶道部、ビームサーベルにプロテクトシールド完備の剣道部、最近いんたーねっとで発見された掛け声を積極的に取り入れたニンジャ部など。
あと、私の学校で有名なのは演劇部です。50人以上の部員を抱えた地区大会優勝の常連で、日本観測区全体の大会で優勝したこともあるそうですよ?
「そういえばさくらはさ、他の部活とか検討しなかったのかしら?」
「いえ?私は別に……。入学する前は入りたい部活も無かったですから。」
「ふーん?うちの学校なら、たとえば演劇部とか強豪だよ?」
私がお茶を入れながらさくらちゃんに話を振ると、なぜか心底嫌そうな顔をして、ブルブル顔を振りながらさくらちゃんが答えました。
「演劇とか絶対に嫌です!確かにここの演劇部は強豪ですけど、ロールプレイは中学で封印したんですから!……それに地球観測部はゆったりしていて落ち着くからいいんです。」
「別に地球観測部だからゆったりしているわけじゃないんだけどさあ……。」
ふるるちゃんがクッキーをかじりながら肩をすくめます。
「まあいいわ、ウマが合ってるなら楽しめばいいわよね。」
今日はまったりティータイムコースかな……、そう思ったときでした。
「ピシャ、バァン!!」
勢いよく開かれた部室の引き戸が、柱にあたって大きな音を立てました。
「さくらーーーーー!!!」
そして、高く響く声が部室内に轟いたのです。さくらちゃんは驚いてカップを落としそうになり、慌ててそれを両手で支えています。ふるるちゃんと私も動きを止め、入口に立つ人物を見上げました。
「さくら!どうして!?どうしてここにいるの!?ねぇ、私の目が間違ってるの!?これは幻覚!?」
「……せりり?……あー、うん、久しぶり、元気だった?」
さくらちゃんからせりりと呼ばれた女の子は、赤いユニフォームを着ていました。あのユニフォーム、どこかで見たことがあったなあ?あ、そうです、たしか演劇部があんなユニフォームでした。
せりりちゃん?は目をこすりながら、さくらに返事を返します。
「え、あーうん、おかげさまで元気……じゃありません!さくら、貴方なんで演劇部に来ないのよ!もう入学してから3か月近くたってるのよ!引っ越してから音沙汰なかったけど、演劇部が強豪のうちの学校に入ったって聞いてたから安心してたのに!今からでも……むぐ!?」
「まあ落ち着いてクッキーでも食べてね。あとこれ、はい、お茶。結構いい茶葉使ってるのよ。」
ふるるちゃんは大騒ぎする女の子の口にクッキーを押し込んで、お茶のカップを押し付けると、空いている席を勧めました。女の子は押し込まれたクッキーに目を白黒させていましたが、何とかお茶を使って飲み込みました。あ、火傷したんじゃないかな?大丈夫かな?
さて、女の子はさくらちゃんの向かい側に座ると、今度は私とふるるちゃんの方を強気な視線で睨みつけてきました。でも、無言です。ふるるちゃんはため息をつくと、女の子に話しかけました。
「落ち着いた?さあ、貴方はどこのどなたかしら。自己紹介は社会生活の基本よ?私はふるる、二年生、ここ、地球観測部の部員をやっているわ。」
「……せりりです。一年生。演劇部です。」
「わ、やっぱりその赤いユニフォーム、演劇部だったんだ!私はぱるね、二年生で同じく地球観測部だよ。」
「知ってると思うけど一応。私はさくらです。一年生で地球観測部……」
「なんで地球観測部なのよ!あの時誓ったじゃない!」
ガターン!せりりちゃんが勢いよく立ち上がり、その拍子で椅子が後ろにひっくり返りました。元理科室の四角い椅子はひっくり返る程度では壊れませんが、大きな音を立てたその椅子を見て、私たち3人は目を丸くします。
「コロニーΩで誓ったじゃない!ロールプレイで世界を取ろうって!だったらまずは演劇部でてっぺん目指すじゃない!私たちの星はこの学校で再び巡り合ったのだから!」
「星?巡ってるの?よくわからないけどすごいね?」
私がさくらちゃんに確認しようと振り返ると、さくらちゃんは机に突っ伏しています。
「黒歴史を蒸し返さないで……。」
「コロニーΩではさくらが光で私が陰だったけど、今度は私がさくらの道を照らしてあげる!さあ、演劇部へ向かうわ……むぎゅ!」
「まあまあ、このクッキーも美味しいわよ。それで、さくらは演劇部に興味があるわけ?」
「いえ、まったく、全然、考えたこともないです。」
「ぅあんえよーーー(モグモグ)」
「ええと、せりりちゃんだっけ?さくらちゃんは演劇部に興味がないみたいだし、今日のところはお茶でも飲んで落ち着こう?ね?」
「ん---(ごっくん)、こ、こうなったら勝負よ!」
「ふえ?」
「きっとさくらは地球観測部の人たちに騙されてるのよ!こんなクッキーやお茶くらい演劇部にだって……演劇部にはこんな高級なのないけど、団結力なら負けないんだから!勝負よ!演劇部と地球観測部で、さくらちゃんを掛けて勝負をするわ!」
「「「えーーー!」」」
「話は聞かせてもらったわ!その勝負受けましょう!」
「「「って、しゃーれ先生!?」」」
いつものごとく気配無く現れたしゃーれ先生が、何という事でしょう、さらに唐突に勝負を受けてしまいましたよ?演劇部と地球観測部が勝負!?何をどうやって勝負するの?知力?体力?勝ち負けとかどうなるの?はてなマークが飛び交っている私を置いて、話が進んでいきます。ふるるちゃんが最初に再起動して突っ込みました。
「ちょ、ま!しゃーれ先生?よくわかんない勝負受けちゃうんですか?」
「勝負を仕掛けられたらすべて受けるのが地球観測部の伝統ですよ?」
「うえ!?そ、そんな伝統引き継いだ覚えないですってば!」
「ああ、そういえば今この部には部長が不在でしたね。代々の部長が引き継ぐシークレットノートに地球観測部心得が書いてありますよ?今度読ませてあげますね。」
「え!それってやっぱり私が次期部長ってことよね……って、そーじゃなくってさあ!」
「勝負って何をするんですか?」
私が疑問点をつぶやくと、しゃーれ先生はウィンクして答えました。
「わが校にはね、部同士でトラブルがあったときに行われる伝統的な勝負方法があるのよ。ちょうどいい機会だから一度体験してみましょう。部活対抗戦をフィールドワークしますよ!」
さくらちゃんが「えええ、私の意志はどうなるの……?」とか、ふるるちゃんが「伝統的な勝負?あ、でもフィールドワークだったらいいの……やっぱり良くないわよ!」とか、つぶやいているのは放置されそうです。私は勝負方法への興味の方が上回ったので、やっぱり楽しくなってきています。
さて、今日はお時間となりました。もはや突っ込み不在のまま、さくらちゃんとせりりちゃんの出会いは部活対決に発展していくのでした。勝負はどうなるのか?貴方は突っ込み不在空間に放り込まれた事はありますか?「突っ込んだら負け」という日本のことわざを聞いたことがあります。時には流れに身を任せることも処世術かもしれませんね?――それでは、また。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます