第30話 地球観測部 vs. 演劇部!? さくら争奪戦!(後編)

 私の声は貴方に届いていますか?

 今日は私の高校で時折行われる、部活対抗戦についてお話します。


 違う部活同士が対抗戦を行う伝統があるなんてはじめて知りました!部活ごとに得意とするジャンルが異なると思うのですが、そこはどうやって調整されるのでしょうか。詳細は分かりませんが、しゃーれ先生は「やってみればわかるわ」とはぐらかすばかり。謎は膨らみます。


「校内調整が終わったわ。明日の放課後、体育館を押さえました。明日はそうですね、それなりに体を動かしますので体操服で体育館に集合してください。今日は解散ね。」

「はい!さくらは演劇部が頂きます!じゃあ部活あるからまた明日!」

「だから!せりりちゃん、私は演劇しないから!あ、ちょっと聞きなさい!」

「せりりちゃん、いっちゃったねー。まあ、明日、楽しみ?」

「ぱるねは何でも楽しむ癖、ちょっとは抑えよう?他人事じゃないのよ?」


 ふるるちゃんに注意されました……。そして翌日の放課後、私たち地球観測部は体育館に向かいました。


 体育館の扉を開けると、中央のステージに「部活対抗戦!演劇部 vs 地球観測部」と大きな横断幕がぶら下がってます。そしてステージ下に整然と待ち構える50人を超える集団。恐らく演劇部の方々でしょう。さらに2階のギャラリーには立ち見状態になってる大勢の人。扉を開けると同時にその視線が一斉に私たちに注がれ、次の瞬間大きな歓声が立ち昇ります!


 うわあ、なんだこれ、なんだこれ!言葉もない私たちに向けて、ステージ中央に居る人から大きな声がかけられました。


「遅かったな、逃げたのかと思ったぞ!私は演劇部顧問のいるいだ!今日の部活対抗戦、正々堂々戦おうぞ!」


 その声に応じて、私たちを率いてきたしゃーれ先生が応じます。


「ふふふ、貴方こそ、私たちの観測の目から逃れられるとは思わないことね。地球観測部顧問、しゃーれです。演劇部の皆さん、今日は部員が胸を借りますのでよろしくね。」


 今日のしゃーれ先生のいでたちはいつものスタイリッシュ系ではなく、赤く派手なドレス姿で、まるでショーの司会者のようです。ステージのざわつきが収まるのを待って、しゃーれ先生は演劇部部員たちの中央を突き進みステージに向かいました。カツ、カツ、カツ……、ハイヒールの響きだけが体育館に響き渡ります。いるい先生の横に並ぶと、しゃーれ先生は厳かに宣言しました。


「それでは、本校伝統の部活対抗戦!演劇部対地球観測部の対決を始めます!」


 わあああああ!!!場内から歓声と拍手が巻き起こりました。とはいえ、その歓声の向かう先はほとんどが演劇部に対してでしょう。わずか3人の私たちは、訳も分からず雑談してる状態です。


「ねえ、どうするのよ、結局私たち、何するかわかってなくない?」

「うーん、きっとこれから説明してくれるんじゃないかなー?」

「ぱるね先輩は楽観しすぎます。というか、私の意志が無視されてます……。って?」


 気が付くと会場は再び静まり返ってます。こういうときの雑談って妙に響くんですよね。周囲の視線に気づいた私たちは慌てて口を押えましたが、ステージからは丸聞こえだったようです。


「アハハハ、今年の地球観測部の部員たちも豪胆なようだな、この状況でのんきにおしゃべりとは!」

「ふふふ、演劇部の皆様も一糸乱れず集中していてすごいですね。流石強豪です。さて、対決の説明を行いますよ。行うのは3種目。それぞれ演技力対決、知識力対決、そして魅力プレゼン対決です。」

「それでは早速、まずは演技力対決だ!お題は『パントマイム・地球の名場面』。地球上の文芸作品から名場面とされるシーンを声を出さずに演じてみよ!これは演劇部からやってみよう!」


 ふるるちゃんが「ちょっと、いきなり無茶ぶりよ!」などと言っていますが、会場の熱気にかき消されてしまいます。


 さて、演劇部は……。せりりちゃんと男子が舞台中央に上がりました。2人とも、何かに掴まっているようです。手すり?を持ち、もう一方の手でせりりちゃんを手で招く男子。彼女は優雅に歩み寄ると、男子生徒に背を向け、そっと目を閉じました。後ろから男子はそっと歩み寄り、彼女の両腕をそっと広げます。


「風……、海原?」


 そう、確かに彼女たちの正面からたなびく雄大な風の流れを感じます。まるで海原に向かって飛び立つかのよう。男子部員の手が彼女の腰に添えられ、二人の体が一体となって傾く様子は言葉なしでも深い信頼を表現していました。最後にせりりがゆっくり振り返り、男子部員と見つめ合って指先だけを触れ合わせると、会場からは感嘆の溜息と温かな拍手が沸き起こったのです。


「これは映画『タイタニック』のシーン再現だな!さて次は地球観測部だ。舞台へ上がりたまえ!」


(えーーー!無茶よ、打ち合わせもなしに、なにするのよ!)

(ふるるちゃん、ここは『トトロ』をテーマにするしかないよ!)

(え、トトロ?トトロ……え、なんのシーン?)


 必死のアイコンタクトもむなしく、私たち2人は舞台に上がりました。トトロといえば雨のバス停シーンですよね!私は両手を大きく広げた後腰にあて、体を膨らませてみます。それから両手を上から下に波のように揺らしながら、雨を表現してみました。とても無理があります。


(ええ?なに?カタナでも振り上げてるの?波?……バス停シーンね!)


 しばらく目が踊っていたふるるちゃんですが、何とかシーンにたどり着いたようです!背中に誰かを背負ったようなしぐさ。不意に私に気が付き、驚いたように私を見上げます。そして手に傘を持つしぐさをして、恐る恐る私の方に差し出しました。ん!これは私たち的には完璧だったのではないでしょうか!


「……ん?手を波のように揺らして、相手は手を振り上げる?なんだ、新手のチャンバラか?」

「「トトロのバス停シーンです!」」

「お、おう、2人の息がぴったりだったことは認めよう!」


 会場からはまばらな拍手をいただきました。あれー?とりあえず演劇対決は終わったようです。採点のようなことは行わず、次の対決となりました。『知識力対決』です!


「さて、知識力対決は日本に関するクイズです。ちょうど2名ずつ舞台に上がってますから、そのまま回答者になってくださいね。さて……。」

「第一問!『七夕』で、願いを書くアイテムは?」

(地球観測部)「「短冊!」」

「第二問!『花見』を行うのは何月?」

(地球観測部)「「四月!」」

「第三問!茶道で『一期一会』とはどういう意味?」

(地球観測部)「「一生に一度の出会いを大切にしよう!」」


「ちょっとー!このクイズ地球観測部に有利すぎるじゃない!」


 せりりちゃんが絶叫しますが、問題は続きます。結局、知識力対決は地球観測部の圧勝に終わりました。まあ、演劇対決では演劇部の圧勝だから、こうでもしないとつり合いが取れないですよね。


「さあ、最後の勝負は部活プレゼン対決だ!それぞれの部活アピールなど、プレゼンしてくれ!まずは演劇部から!」


「さくら、貴方は演劇部に必要よ!みなさん、これを見てください。」


 せりりちゃんは冒頭こう話すと、プロジェクターに映像を流し始めました。さくらちゃんが「えええ……。」と言ってますけれど、これは以前見たことがある、コロニーΩのロールプレイ映像ですね?


「コロニーΩでの、私とさくらの対決シーンです。このころのさくらは輝いていました!表現する喜び、自分を解放する楽しさを知っていました。演劇は単なる演技じゃない、自分自身を発見する旅なんです。」


 せりりちゃんはさくらちゃんの方を向いて熱く語りかけます。


「さくら、あなたの本当の才能を埋もれさせないで!演劇部なら、あなたの輝きを一緒に最大限に引き出します!ローブを羽織り、魔法の杖を握る感覚を思い出して!」


 圧巻のプレゼンに、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。続いて私たち地球観測部の番です。


「じゃあ、私から話すね。さくらちゃん、私は日本へ放送したくて地球観測部に入ったんだ。そのために入ったのに、今ではすっかりティータイムが楽しみになっちゃった。」

「私は今は卒業しちゃった先輩部員にあこがれて入ったのよ。ぱるねとは全然違う理由。でも一緒にお茶を飲んで、観測データを眺めるっていう時間がとても心地いい。」

「ね、さくらちゃんが入ってくれた『きっかけ』を覚えてるかな?入学式の『さくら』の演出がさくらちゃんに届いたこと、とてもうれしかった。地球観測部の活動ってね、ただ観測するだけじゃない、誰かに『届ける』事が目的なんだと思う。」

「そうね~。普段はゆるゆる過ぎるのどうかと思うけどね!私も、先輩部員の人たちから受け取った『何か』を、別の誰かに届けられたらいいなと思うわ。どう?さくらちゃん。」


 プレゼンが終わり、会場に静寂が流れます。いるい先生としゃーれ先生が小声で何か打ち合わせをしている様子で、生徒たちはその結果を待っていました。


「さて、これから教員による協議を――」


 いるい先生の言葉が途中で途切れました。さくらちゃんが突然立ち上がったのです。


「私から話をさせてください!」


 静かだけれどもはっきりとした声が体育館に響き渡ります。会場の空気が一変し、全員の視線がさくらちゃんに集中しました。


「せりり、あなたの言うとおり、コロニーΩの頃はとても楽しかった。シェリカ・リムナになりきることで、別の自分になれるような解放感があったの。」


 さくらちゃんは一度深呼吸して、続けます。


「あの時間は確かに、私にとって大切な思い出。でも、今の私は少し変わったの。他人を演じることより、自分に問いかけること、観察することが心地よくなった。」


 せりりちゃんは複雑な表情を浮かべていますが、さくらちゃんの言葉に耳を傾けています。


「せりり、あなたがあの頃の私を大切に思ってくれていることは嬉しい。でも今は……地球観測部にいると自分らしくいられるんです。お茶を飲みながら観測データを眺めて、みんなと小さな発見を分かち合う。それが今の私には心地いいんだ。」


 さくらちゃんはぱるねとふるるちゃんの方を見て、少し微笑みました。次にせりりちゃんの方を向き、優しく続けます。


「私、今はこの場所で自分の新しい可能性を見つけていきたいの。せりり、わかってくれる?」


 体育館に静寂が広がりました。いるい先生としゃーれ先生は顔を見合わせると、しゃーれ先生が一歩前に出て話し始めました。


「人は時間と共に変わるものよ。今の自分を大切にすることは素晴らしいこと。でも過去の経験も今のあなたを作っている大切な一部よ。大事にしてあげてね。」


 続いて、いるい先生も前に出ました。


「才能は形を変えて活かされることもある。さくらの気持ちを尊重し、地球観測部の勝利とする。まあそれはそれとしてだ、たまには色んな形で交流できれば良いと思うぞ。」


 せりりちゃんは寂しそうな表情で、ぽつりとつぶやきました。


「あの頃とは違っても、また遊んで欲しいの。誘ってもいい?」

「演劇はしないよ?でも友達だと思ってる。いつでも誘ってね。」


 ★★★★★★★★★★★★


 部室でのティータイム。みんなくつろいで、クッキーをつまんでいます。


「確かにいつでも誘っていいとは言ったけど……なんでせりりが居るの。」

「えー、さくらが演劇部に来ないんだったら、私が地球観測部に行くしかないよね?」

「ねえ、せりりちゃん、いっそ地球観測部に入らない?うちは兼部OKだよ?多分。」

「ぱるねってば、勝手にルールを改ざんしないの!……あれ、兼部OKだっけ?」

「先輩たち、適当すぎます。……まあ、いっか。」


 さて、今日はお時間となりました。時が経てば、自分という存在も変わっていきます。昔は当たり前だと思っていたことが、今思い返すと不思議に思ってしまうことが、貴方にはありませんか?でも、いつの自分だって、貴方の大切な自分だったと思うんです。大切にしてあげてください。――それでは、また。

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にゃんぷっぷー ~私の声は貴方に届いていますか?~ 月鐘 @tukikane

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