第27話 ろあ、地球観測部に現る

 私の声は貴方に届いていますか?

 今日は部室に「ろあ」を連れて行ったみんなの反応についてお話します。


 宇宙船では鳥を放し飼いにできるという話は先日したばかりですね。ペットにしやすい鳥の種類というのがありまして、放し飼い前提であれば帰巣本能が強い種が中心となります。日本で人気のインコなどは帰巣本能が弱く、放し飼いにしちゃうと毎回回収で大騒ぎになるため、放し飼いには向いていません。インコなどは室内飼いが主流ですね。


 ろあは地球の「ルリガラス」をベースに、宇宙船で改良、ペット化された種です。地球のルリガラスをひと回り小さくした程度の外観で、全長20cmほど。何でも食べますねえ。昆虫とか勝手に捕まえてはモグモグしてます。私はいらないですから持ってこないでね?原種は縄張り意識が強いらしいですが、ペット化されたこの子達は複数飼いでも喧嘩はあまりしません。宇宙船という巨大な鳥かごの中で、彼ら彼女らはのびのびと暮らしています。


「ろあー、授業終わったよー。部室行こうか。」

「ピッ」


 教室から出て、廊下で毛づくろいしていたろあに声をかけます。ろあは一声鳴くと、肩に乗ってきました。言葉分かってますよね、鳥ってそこまで頭良かったっけ?まあいいかと、地球観測部の部室に向かいました。部室にはすでに2人が居ます。私が最後だったようです。


「こんにちはー。」「ピュイ」

「はい、こんにちは。……、で、その肩の上の青い鳥は何?」

「あ、ぱるね先輩。綺麗な羽の鳥ですね!」

「ろあだよー。」「ピュイピュイー。」

「……息ぴったりね。どこで拾ってきたのよ。」

「ん、昨日、仲良くなったの。」「ピッ。」


 私の言葉に、ろあが適当に相槌を打つのでまるで熟練の夫婦のような息ぴったり感を漂わせています。ろあは部室を見回すと、壁に掛けてある額縁の1つの上に飛び移り、そこで毛づくろいを始めました。


「自由な鳥ねー。誰かさんにそっくりだわ。」

「先輩。そういえば、ペットの鳥を学校に連れ込んでも良いんですか?」

「校則上は、授業中に教室に持ち込まなければあとは自由なはずよ。元々宇宙船内はそこかしこに鳥さんとの共有スペースが作られてるしね。たまに見かけない?廊下に鳥さんを待たせてる人。宇宙船で一番優遇されてるのは人じゃなくて鳥だ、っていう人もいるくらいだしねえ。」

「ほえー、そうなんだ。」

「なんでぱるねが感心してるのよ、調べときなさいよペット飼うなら。」

「名前つけたのは私だけど、餌も自分で取ってくるし、私ほんと何もしてないんだよね。……まあいっか!」「キュル」

「仲、良いですね。ぱるね先輩と、ろあ?ちゃん。」


 話題は3人のペット事情に移ります。ふるるちゃんはお貴族様だし、ペットをたくさん飼ってるんじゃないかな?


「ん、私?まあ、実家に戻ればペットはたくさんいるけど、メイドが世話してる感じで私はたまに触らせてもらうだけだったわねえ。……鳥って、たまに服とか頭の上にフンをするじゃない?それが嫌でさあ。」

「「え?」」

「ん?いや、するでしょ?フン。」

「ふるる先輩。宇宙船の鳥はトイレのしつけがされてて、決まったところ以外ではフンをしないって聞いてるんですけど。」

「私も聞いた。共有スペースの決まったところだけ掃除してればいいから楽だって。」

「ええ?」

「……ふるる先輩、それってもしかして、鳥に遊ばれてたんじゃ……。」

「……うそ!」


 ふるるちゃんが愕然としてワナワナと震えています。これはしばらく声を掛けない方がいいでしょう。私はさくらちゃんに話を振りました。


「さくらちゃんはペットとか飼ったことがある?」

「自分で飼ったことはないです。けど、自然公園とかでよく遊びましたね。」

「ふーん?」

「私、なんでか鳥に好かれるみたいで。公園でベンチに座ってたら鳥が寄ってくるんですよ。昔それで嬉しくなって持ち歩いてたパンをちぎってあげてみたら、鳥に囲まれて大変なことになったりしました。」


 そういってAR端末の写真を見せてくれました。小さい頃のさくらちゃん……らしき人の形をした鳥の塊がベンチにもこもこになってます。頭の髪の毛と手に持ってるパンがかろうじて見えてますが、もう何が何やら。


「ほえー、鳥に好かれるんだねえ。」

「宇宙船内だとずっと鳥かごに居るような感覚ですから、わざわざペットを飼う、って感じにはならなかったですね。」

「ああ、鳥の存在が当たり前すぎて、わざわざペットにする人は意外と少ないのよね。」


 あ、ふるるちゃんが復活しました。ろあがふるるちゃんの頭の上に寄っていこうとしていますが、気が付いたふるるちゃんが防衛しています。ふるるちゃんも鳥に好かれるタイプだと思いますよ?


「ちょっと、もう、フンとかしないでよ!……あー、話がそれた。そうそう、なんでぱるねはペットを飼うことにしたの?」

「変かな?」

「変じゃないけど……なんだか唐突な感じがして。」

「唐突かどうかは分からないけど、この子と一緒にいると、どこか知らないところに行けそうな気がしたの。」

「知らないところ?」

「日本とか。まあそれは無くても不思議なところ?最初にこの子と出会ったときも、なんだか不思議体験をしたんだよ。」

「なにそれ、怖い話は嫌よ?」

「神社まで連れて行ってくれただけだよ。あとおみくじ引けって勧めてきたの。多分昨日みたいなことが、またあると思うんだー。」

「え?おみくじ勧めてきたんですか?ろあちゃんが?」


 さくらちゃんが不思議そうにろあを見つめています。私は得意げに言葉をつなげました。


「特別な鳥さんなんだー。それに、可愛いでしょ?」「トゥルル♪」


 同じく得意げにさえずるろあ。私の肩に移っていたろあは、時を置かずにまた飛び立ち、今度は観測端末の前に着地します。3人の視線が、ろあと観測端末に集まります。そのまま、じーっと端末を覗いていると、端末が「ポーン」という通知音を発しました。


「わあ、通知が来るのが分かったの?」「ピュイ!」


 ★★★★★★★★★★★★


 【地球観測通知】

 観測データ更新: ホタル観賞(初期解析完了)


 【概要】

 ホタル観賞は日本で夏の風物詩とされる文化的活動です。

 主な活動内容は以下の通りと推定されています。


 ①「ホタルの生息地訪問」:日本各地の川辺や湿地帯において、ホタルの光を鑑賞することが目的です。

 ②「夜間観賞」:ホタルの活動が活発になる夜間に行われることが多く、静かな環境で自然の美を楽しむ風習があります。

 ③「季節感の共有」:ホタルの光が消えるまでの短い期間が、日本の初夏を象徴するイベントとされています。


 【観測の限界】

 ・観賞時の具体的な文化的習慣やマナーについては、引き続き解析中です。

 ・ホタルの光が持つ象徴的な意味については未確定。


 ★★★★★★★★★★★★


「ホタルって昆虫でしょ?どうせ、美味しそうだって思ったんじゃない?」

「ピュイイイーー!」「わ、うわ、突っつかないでよ、やめてぇ!」


 駄目だよふるるちゃん、ろあってきっと言葉がわかるんだから。――なんの根拠もありませんが、私はそう確信しています。涙目のふるるちゃんから、ろあを何とか引きはがします。そうしていると、不意に教室内に声が響きました。


「綺麗な鳥さんね。ぱるねさんのペットかしら?」

「しゃーれ先生!はい、私が連れてきました。ろあって言います。」

「そう、新しい部員として歓迎するわ。ようこそ、地球観測部へ。」「ピュイ!」


 ろあはちゃっかり先生の肩の上に止まると、一声発しました。そしてまた、観測端末の前に降り立ち、先生の方をじっと見ています。


「あら、新しい観測通知ね。……ホタルならちょうどいいわ。週末にフィールドワークに行ってみない?」


 なにやら青い鳥は、また新しい出会いを引き連れてきたようです。ろあが加わった地球観測部は、これからどんな風に変わっていくのでしょう。週末が楽しみです!


 さて、今日はお時間となりました。日本では犬とか猫とか、哺乳類のペットが主流のようですね。宇宙船では残念ながら犬猫は見かけませんが、ペットに癒される時間って、どんな動物だったとしても変わらず大切なものだと思います。貴方はペットを飼っていますか?貴方のペット自慢、いつか楽しく聞かせてください。――それでは、また。

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