【8】「本物の勇者」

「つまり?要約すると……」


ヒーリアは、王国にある『魔法源泉まほうげんせん』を

壊そうとしてる悪い魔女で。


ミミナミは、そのヒーリアが差し向けた暗殺者で。


そんで俺は、その暗殺対象で、でもヒーリアを助けた。


「そう言う事になる?」


「殺そうとはしていないが…おおむね、そう言う事になるな」


そう言ってミミナミを睨むヒーリア。


ミミナミは、猫の様に縮こまった。


あれだな。


この話にタイトルを付けるとすれば。


『異世界に転生した俺が助けたのは、実は俺を殺そうとしている魔女だった件ついて』


とかになるのか?


しかし、まさかだな。


ヒーリアが大ボスだったなんて、

こりゃまずい事になったぞ。


俺のこの気持ちはどうすれば良いんだよ!!!


「アキヒロ…君は【勇者の因子】を継いでいるのだな?」


「あぁ〜うん。でもなんか、魔位?とか、全部ゼロだったけどね」


「すべてゼロか…そうか…」


ん?……まずい?これ言っちゃいけない事だっけ?

完全に言っちゃダメなやつだったわ……うん。

俺もしかして殺されちゃう?


「すまない。それは私のせいだ」


俺のゴミカスステータスがヒーリアのせい?


「それはどういう事?」


「勇者は、私が先に召喚したんだ。

 その勇者に、本来の能力が継承されたのだろう」


「え?俺とは別に、もう一人勇者がいんの?」


「ああ、その名は『ヨールー』魔勇者ヨールーだ」


~以下説明~【魔勇者ヨールー】

-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


私は、ゲルドパンにかけられた呪いを悲観して生きてきた。


その年月としつきは、2000年にもなる。


魔女と呼ばれるには、十分な年月としつきだろう?

呪いのもう一つの側面『不老不死』のせいだ。


だが、私の目的である『呪いの解呪』は困難を極めた。


何故ならば、ゲルドパンは、もうこの世に居ないからだ。


長い研究と、考察の結果。


私は、ゲルドパンを復活させる発想に行き着いた。

きっと、この呪い自体が、その為の保健だったのだと思う。


だが、神を蘇らせる魔力など、人が作り出せるものじゃない。


そこで私は、『魔法源泉の核』に刻まれている『召喚魔法』を利用して、

ゲルドパンを転生させる計画を立てた。


本来は【英雄】【勇者】【聖女】を、召喚する為の魔法回路だ。


そして魔族領アヌローヌの魔法源泉を利用して、

ゲルドパンが転生したのが『魔勇者ヨールー』だ。


しかし、奴はゲルドパンの記憶を使って、私に交渉をした。


『唯一神アロンパン』の核を破壊する強力をすれば、解呪を約束すると。



……私は…その交渉に頷いた。



-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

~以上説明終わり~


『不老不死』の呪いか……

なるほど。どうりでケガの治り方が異常なわけだ。


「……幻滅しただろう?

 私は、数千数万の人々が、生活苦を強いられる事よりも、

 自分の事を優先したのだ。

 なんといやしい事か……ミミナミは正しいな。

 ふしだらだよ。私は」


「ヒーリア様……私は何度でも言います!

 そんな事はありません!」


ミミナミは、弱音を吐くヒーリアにグッと近づいたが……

その手を握り、肩に寄り添う事は出来ない。


そこに『死の肌』の呪いを持って生きてきた、

彼女の人生、そのもどかしさの縮図を見た気がした。


ミミナミは、悔しそうに両手を握った。


「貴女は、私達のような、

 魔力適性が高すぎて迫害されてきた古代種に、

 その身を隠す虚神教教団という居場所をくれたではありませんか」


虚神教?…あぁ。

なんか、王国でも聞いたな。


ヤベー宗教団体かと思ってたけど

なんか訳ありみたいだぞ?

 

「私の母も、祖母も……先祖代々…ヒーリア様には感謝しかありません。

 同族の仲間も皆、同じ気持ちでしょう」


「だが私は許されない……

 恩人の師が眠る墓を、利己りこで暴き……

 たくさんの人間を傷つけてしまった」


ヒーリアが…人を?

それは……でも…

それが全部じゃないだろ。


あれは、それだけじゃなかったはずだ。



「でも!!できる限り傷つけない様にしただろ!!

 ウドドの列車の時もだ!

 ヨールーと対立するようなマネまでして、

 あの魔族のおっさんを助けようとしてたじゃないか!!!」



俺は知ってる!

ヒーリアは、ネダチの攻撃から、あのおっさんを守った!!

マルケリオンと、同じタイミングで!!

じゃなきゃ、あのおっさんは首が飛んでたんだ!!



「……アキヒロ?…なぜだ…何故そんな事を知っている?」


「……夢で見たからだよ」



ヒーリアと、ミミナミの会話を聞いていて、

俺はここ最近の不思議な夢の中に、

彼女たちが居た事に気付いた。


「…あのさ、俺、夢で見るんだよ。

 この世界に来てから、誰かの記憶をさ。

 今の話を聞いて確信した。

 俺が見ていた夢は、そのヨールーの記憶だ」


どうやら俺は、紛い物。

がらんどうの勇者だった。


でも、それでも魔位測定では【勇者】の称号があった。


それで、同じく本物の勇者として

召喚転生したヨールーと、

どこかで繋がっていたんだと思う。


「なるほど…ありえる話だ」


「それで…ヒーリアは、これからどうするんだ?

 また、ヨールーと、王国の魔法源泉を破壊しに行くの?」


「……そうだ。呪いを解く為に……私はそうする。

 それに、もうヨールーの計画は完遂しているだろう。

 もう止めることはできない」


その答えに、俺は口を結んでしまう。


なぜなら…ヨールーの記憶の中には、

彼女には残酷な真実があったからだ。


でも、これは言わなくちゃいけない。


彼女と……それと、俺自身の為に。



「ヒーリア。それは無駄なんだ」


「……なに?…無駄とは、どう言う意味だ?」


「ヨールーは、呪解なんか出来ない」


「……呪いが…解けない?

 どう言う事だ……説明しろ!!」


覗き見たヨールーの記憶、

そこから得られた真実。


「ゲルドパンの記憶の中には、

 その方法が無かったんだ。

 それがわかっていて、君を利用した。

 ヨールーゲルドパンは、君の事を

 死なない便利な駒としか思っていない」


「嘘だ…なら……私は…何の為にあんな……」


「……嘘はついていない……こんな時まで、ふざけたりしない」


ヒーリアは、深い紫色の瞳を真っ黒にして、

俺からゆっくりと視線を外すと、ぼんやりと虚空を見つめた。



「……少し…一人にさせてくれないか…」




————————————————————————————————————


傷心したヒーリアの一言で、

俺とミミナミは小屋から出た。


打たれる様な空気に、神経が乾く。

何を話していいか分からず

しばらく、森に目を向けたまま生唾を嚥下えんげしていた。


「……虚神教はな……」


雰囲気に耐えかねたのか

ミミナミが喋り出す。


「その名を語れば、常人なら嫌厭けんえんするとして、

 ヒーリア様が名付けられたんだ。

 思惑おもわくの通り、私達は迫害から解放された。

 その代わり、頭のおかしな集団だと恐怖されたが、

 差別や悪害よりもはるかにマシだ」


確かに…王国で聞いた『虚神教団』と、その『僧兵』の印象は、

かなり強力でヤバい奴ら……みたいな感じだった。


しかし、呪われた自分の事でいっぱいのはずなのに、

よくもまぁ、他人に世話など焼けるものだ。


でも……それで自分が救われません。

なんて、そんな話あるかよ。


「……ヒーリアは…どうするんだろうか」


「……さあな…ただ、ヒーリア様には、

 幸せになってほしいと思っている」


「そうだな…それは俺も一緒だよ」


「なぁアキヒロ。

 どうしてヒーリア様が、

 勇者の剣を欲しがったのか、わかるか?」


「そりゃ…ヨールーに渡す為だろ?」


「確かに、ヨールーも、その剣を強く求めていた。

 しかし、目的はそれじゃない。

 その剣は、ヒーリア様のお兄様が残した唯一の遺品だからだ」


「お兄さんの…遺品?」


「ああ。ヒーリア様は、

 勇者アヌロヌメの妹なのだ」


「!!」



確か、マルケリオンがそんな事を言っていた。

敵対する魔女の異名「勇者殺しの魔女」と……



自分の呪いで兄を死なせた妹。

勇者殺しの魔女。


同じ人間を指す言葉なのに、

その真実は随分とニュアンスが違う。


伝説。歴史。人間の伝言ゲームは、

どれもこんな風に曲解されるものなのだろうか?


何てむなしい事だ。


「わかるか?…アキヒロ。

 実の兄を、呪い殺し。

 その呪いのせいで、誰とも寄り添えず、

 不老不死の体で、一人で孤独に生きる彼女の人生が、

 どれくらい辛く、残酷なのか」


残念だが全く分からない。


アニメやゲームで見て聞いて

よく知っている設定なのに

いざ、その「心を知れ」となると難しかった。


「私は、先祖の残した書記を読んで、

 彼女の人生に、少し触れた。

 ……あれは、人の生き方じゃない」



そこで俺は、ようやく自分の勘違いに気づけた。



彼女が体に触れさせてくれて、

そしてそれを受け入れてくれたのは……


2000年もの間、人と触れ合う事ができなかった、

その孤独を癒す為だったんだ。


ヒーリアは、素直に、無邪気に、

人肌に触れて甘えたかったんだ。



生命の温かさに恋い焦がれて。



そして、どれだけ孤独に苛まれても

死ぬ事のできない体と常に向き合いながら。



俺は、リュックの中に、今もあるロープを思い出す。

そして、どうやってこの世界に来たのかも思い出す。



「格好つけて…トラックに轢かれた。なんて……情けない」


「トラック?」


「いや……『死』っていう

 最後の逃げ道も無いなんて、

 考えただけで…地獄だなって……そう思ったんだ」


「……なぁ…アキヒロ」


「……なんだよ?」


「お前…ヒーリア様をもらってくれないか?」

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