第72話

心結は菜々緒のマンションに来ていた。

一緒にチョコレートカップケーキを作るので教わりに来たのだ。

「暖ちゃん、出て行って寂しくなったね」

「うん」

「大丈夫よ。人気スターになったって暖ちゃんは暖ちゃんよ」

「そうよね…… 」

心結はチョコレートを湯煎で溶かしていた。


「うわぁ!広い!」

心結は、リビングに入った瞬間に声を上げていた。

「驚いてないで座って」

暖希は心結にソファーを勧めた。

心結はドキドキしながらソファーに座った。

柔らかなベージュのソファーだ。

「コーヒーでいい?」

「ありがとう」

真っ白なキッチンに立って暖希は青いケトルでお湯を沸かし始めた。

「綺麗だろ」

「うん、星屑が煌めいているみたい」

まもなくコーヒーカップがテーブルの上に置かれた。

暖希が心結の隣に座ったので、心結は胸の動悸が高まった。

「みんなは元気?」

「変わらず元気。この間、佳奈さんが差し入れに来たよ」

「そうか。あの2人も上手く行ってるんだ」

「うん」

「新しい人は?誰か入ったの?」

「春になったら誰か来ると思う」

「そっか」

「仕事忙しそうだね…… 」

「うん。毎日色々あるよ。次のドラマも決まった」

「7月からのドラマ?」

「うん。初主演」

「凄いじゃない!」

心結の目は喜びに輝いている。

「まだ公表されてないからこれね」

暖希は人差し指を唇の前に立てた。

「うん。分かった」

心結は暖希に笑顔を見せた。

「暖ちゃん」

心結は袋からチョコカップケーキの袋を取り出した。

「バレンタインデーだから、これ」

「ありがとう。食べていい?」

「うん」

暖希はセロファンを開けてカップケーキを食べた。

「うん。美味しいよ」

「良かったー!」

心結はホッとして胸を押さえていた。

暖希は思わず笑顔になる。

そして心結の唇に自分の唇を合わせた。


ファーストキスは甘いチョコの味がした。

心結はゆっくりと目を閉じた。

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