第41話

「父さんは何も分かってない!仕事に感けて母さんの事も俺の事も放ったらかしだったくせに都合の良い時だけ父親ヅラするな!」

「何だと⁈どこの世界に息子を心配しない父親がいるんだ!」

「俺の事なんかどうでもいいんだろう?」

次の瞬間に父親の手が飛んだ。

思わず頰を押さえたまま父親を見つめる息子。

「もう、こんな家出て行ってやる!」

暖希はいつの間にか演技が本物になっているのを感じていた。

「はい。カット!OKです」


「今のは良かったぞ」

谷川慎太郎はそう言うと笑顔を見せた。

「ありがとうございます」

暖希は深々と頭を下げた。


撮影は上手く行っていた。

「凄いじゃない……!」

心結も大家も目を輝かせながら、話を聞いている。

暖希は夜食のうどんを食べていた。

「何か自分の中から次々に河田慎吾が出て来るんですよ。何て言うのか役と俺の一体感っていう感じで…… 」

暖希は興奮を抑えきれない様子である。

「それは凄いね」

「谷川慎太郎と話はしたの?」

心結は其処が気になっているようだ。

「向こうから話しかけて来てくれたんです。もっと出来るはずだ。遠慮なくぶつかっておいでと言われました」

「良かったねー。暖ちゃん。それは間違いなく成功だよ」

「そうなるように頑張ります」

心結は暖希の顔に仄かな自信がある事に気が付いた。

それが暖希を素敵にしている。

暖希が部屋に戻り、心結はどんぶりを洗った。

今はまだ此処にいるけど、いずれは出て行くんだろうな……

そう考えると、この心結の胸にキューンと痛みが走った。

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