第40話

一方で暖希も映画の撮影が始まった。

谷川慎太郎の息子役だから、いつも近くで演技を見ていた。

暖希には学ぶ事が沢山あった。

「別に。苛々するんだよ。その顔見たら」

息子はそう言うと嫌なものでも見るように父親をチラ見した。

そして部屋から出て行った。

「慎吾、待ちなさい」

母親が追いかけようとすると父親が止めた。

「いいから放っておくんだ」


休憩時間に暖希は共演者と談笑していた。

そこへ、谷川慎太郎のマネージャーがやって来た。

「先生が春名さんにお話があるそうですので此方へ」

「は、はい」

暖希も共演者も直立不動である。

何だろう……演技で何か不味い事でもしたのかな」

「先生、春名さんをお連れしました」

ドアを開けてマネージャーが言う。

「ああ、2人だけにさせてくれ」

マネージャーが出て行き、部屋の中は暖希と谷川慎太郎の2人だけになった。

「まあ、座りなさい」

向かいのソファーを手で示されたので、暖希は一礼してソファーに座った。

「失礼します」

「話と言うのは他でもない。君の演技の事だ。やや無難すぎる。悪い演技ではないが、君はもっと出来るはずだ。遠慮しないでぶつかっておいで」

「あ、ありがとうございます!」

暖希は深々と頭を下げた。

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