第43話 幼馴染が出会った男

『まず、事件についておさらいをしておこう。今までに、今回と同じように亡くなった人間は何人にいるかわかる?』


 どうやら、白亜は質問形式で話を進めていくらしい。先生のように愛理のように質問していく。


「ええと、学校で起きた事件と合わせるとこれで4人目かな」


『その通り、彼らの死因は特徴的だったので、今回の件もその前の3人と同じ犯人だと思われている。死因と子供ということ以外に、彼らの共通点は何だと思う?』


「小学生から高校生くらいの未成年、後は、性別は決まっていない。今のところ、男2人、女2人で性別は決まっていない。後は」


『彼らの生活状況、家族、金銭関係、他に彼らに関する情報を調べてみるといい。一つ、大きな共通点が見つかるだろうから』


 白亜の質問に答えていく愛理。それに対して、ヒントを与えていく白亜。被害者の共通点がわかればと白亜は言うが、愛理には調べるすべがなかった。愛理の部屋にはテレビがなかった。さらに、自分のスマートフォンを持っているわけでもない。


「調べてみるといいと言われても、私の部屋に調べる方法は……」


『確かに難しいな。仕方ない。部屋の外でこそこそと何かしようとすれば、愛理の母親が不審がるし、今回は特別に僕が教えてあげよう。そのまえに、愛理は、時間売買をする人の心理を考えたことがあるか?』


「時間売買をする人の心理?」


 白亜は愛理が調べられないことを知り、自ら愛理に被害者の共通点を教えてくれるそうだ。ただし、すぐに教えてはくれないらしい。今回の事件に関係あるのかわからない質問を愛理に問いかける。しかし、被害者の共通点を早く知りたい愛理は、白亜の質問に真剣に考える。


「時間売買をする人、そうだな、時間を売るのは、お金がない人かな。私もお金が欲しいっていうのも、時間売買をしている理由の一つでもあるから。自分の時間を減らしてでも、お金が早急に欲しい人」


 自分が実際に時間を売る人間、買う人間の立場になって愛理は考える。


「時間を買うのは、文字通り時間が欲しくて買う人。何か目標があって、そのために努力している人とか、病気で余命わずかの人、お年寄りでもっと長生きしたい人かな。私が時間を買うとしたら、目標のための努力で時間が足らないとかの理由で買うかな。時は金なりともいうし。お金があれば、時間を買ってしまうかも」


『意外とまともに答えるね。そう、時間を売る人はお金が欲しくて、時間を売ってでも早急にお金が欲しい奴ら。そして、それは貧困家庭の人々がそれに当てはまるとは思わない?』


 白亜の言葉に愛理は一つの答えが導き出される。


「今日を生きるのにもお金がなくて、毎日の生活をするのがやっとの人とか?」


『そこまでの奴らも、もしかしたら時間を売るかもしれないが、今回の件でははずしていいだろう。そんな奴らは子供を持っていないし、愛理の学校で殺された奴は塾に通っていただろう?』


 愛理の答えはすぐに白亜に否定される。その日の生活を送るのすら大変な人は今回の被害者に当てはまらない。とはいえ、貧困家庭ということは間違いないようだ。ということは。


「子どもが親の財政状況を知って、それを手助けしようとして、たまたま、時間売買業者に声をかけられた、とか」



『そうなるだろうね。例えば、愛理の学校の子も、自分の塾の費用をどうにか捻出している親を見て、自分も何かできることはないかと考えた』


「他の被害者も同じように、貧困家庭でお金に困っていた子ども……」


 愛理のつぶやきに白亜は大きく頷く。それにしても、どうして白亜は事件の内容を細かく知っているのだろうか。疑問に思った愛理は聞いてみることにした。


「でも、どうして白亜はそんなに事件について詳しいの。私の近くにいるはずなのに、私と同じくらいしか情報は集められないでしょう?」


『もっともな疑問だが、それは秘密だ。別にいつも愛理の近くにいたわけではない。それだけは教えておこう。僕にも僕なりの情報の集め方があるのだよ』


「なんか偉そうだけど、まあいいか。それで、その貧困家庭に困っている子供を探せばいいということ?その子たちの誰かが次のターゲットになるということでしょう?」


 愛理は白亜に何かごまかされたような気がしたが、気にしないことにした。そんなことを気にしても無駄なことを知っていた。相手は自分と違い、人間ではないのだ。人間の常識が通用しない相手に、いつまでも悩んでいても意味がない。時間の無駄である。


『確かに貧困家庭の子供、という共通点で探せばいいが、それだとまだ条件が広すぎるだろう。まだまだ条件を絞り込むことは可能だ。殺された被害者の住所は知っているか?』


「知っているよ。だって、4人とも、私が住んでいるところから割と近いか、ら」


 自分で話していて重要なことに気が付いた。気が付いたとたん、叫んでいた。


「それだ!」


 白亜による誘導により、愛理はさらに次の被害者になりそうな子供の条件範囲を絞り込むことに成功した。


「犯人がこの近くに住んでいて、次のターゲットもこの近くの子供にしようとしている……。だったら、後は、どうやって調べるかだよね」



「トントン」


 愛理がこの近くの貧困家庭の子供をどうやって調べようかと悩んでいると、ドアをノックされる音が耳に入る。


「はあい、白亜!」


『わかっている』


 ノックをするのは、母親に違いない。家には母親と妹の美夏しかいない。美夏が愛理の部屋に来ることは、事件後、ほとんどなかった。姉のことを忘れ、姉と名乗る人物に不信感を抱いているので、わざわざ愛理の部屋に近寄らないのだろう。


 白亜はノックの音と、愛理の言葉を聞くと同時に姿をくらました。それを確認して、愛理はドアを開けた。ドアの外には案の定、母親の姿があった。


「お母さん、どうしたの?」


「あなた、大河君とは仲が良かったわよね」


「急にどうしたの。まあ、近所で幼馴染みたいなものだから、仲は悪くないとは思うけど」


「大河君の様子がおかしいみたいなの。愛理、彼の家に行って、話を聞いてあげなさい」


 部屋に入ってきた母親の様子は、どこか焦っているように見えた。愛理は大河の生活状況を思い出し、背筋に冷や汗が流れる。大河の家も、先ほど白亜と話していた被害者の共通点と一致している点がある。


「わかった。すぐに行った方がいいよね」


「話が早くて助かるわ。それで、急いで準備したんだけど、これ、大河君の家で食べるといいわ。大河君の家族分はあるから」


 いったい、大河はどのようにおかしいのか、母親に聞こうかと思ったが、愛理が口に出すことはなかった。母親がすでに大河の家で夕食をとるように準備していたこと、焦ったような顔で、かなりやばい状態だということが読み取れる。詳しいことは本人に直接聞いた方がいいだろう。愛理はすぐに隣の家に住む大河の家に向かった。

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