第42話 共通点
「まったく、これからは私に直接用事があるから出かけると言ってちょうだい。そうでないと心配でたまらないから」
「わかって」
「本当に心配したんだから」
家に帰った愛理は、母親から説教を受けていた。田辺はしっかりと愛理の母親に連絡は入れていたみたいだが、それでも心配はしていたようだ。とはいえ、説教の最後には無事でよかったと泣かれてしまい、愛理も心配をかけてしまったと反省した。
次の日から、学校が再開された。いつもの時間に家を出て通学路を歩いていると、後ろから大きな声で挨拶された。
「おはよう。昨日は休みだったけど、ちゃんと家でおとなしくしていたか」
「おはよう、大河。ああ、美夏なら今日は学校を休むみたいだよ。自分と同じくらいの子が亡くなって、ショックみたいで部屋から出てこないみたい」
大河の挨拶に愛理は軽く答え、お目当ての人物が休みであることを伝える。大河は妹の美夏が休みであることを知っても、特に反応を示さなかった。
「そうか。いや、それは仕方ないことだが、オレが聞きたいのは」
「急がないと、遅刻するかも」
「おい、オレの話を」
愛理は大河の追及を避けるために、走り出す。大河も急いで愛理に追いつこうと走り出す。学校に着くころには、二人は汗だくになり、息も切れて疲れ果てていた。
「い、いきなり走り出すなよ。おかげで学校始まる前から汗だくで最悪だよ」
「私は昨日の分の運動をしようと思っただけ。勝手についてきた大河が悪いんでしょう」
文句を言いながらも、二人は下駄箱で靴を上履きに履き替え、教室に向かう。学校内は異様な空気に包まれていた。先日、学校で人が亡くなっているのだ。異様な高揚感と悲しみに学校内は満ち溢れていた。
「一昨日の事件だけど、亡くなったのは、うちの学校の6年生の男子だって」
「それ、うちのクラスの奴だよ。」
「次はおれ、かもしれないと思うと、夜もおちおち寝ていられないよな」
愛理たちが教室にたどりつくまでに、事件についての話題が次々と耳に入る。
「そういえば、ニュースで見たけど、事件で亡くなった6年生って、お前の塾に通っていたみたいだぞ」
教室にたどりつく直前、大河が愛理に新しい情報を投げかける。そういえば、田辺が何か言っていたような気がする。そうか、田辺の塾の生徒だから、田辺も犯人を捕まえたいと思っているのか。愛理は勝手に田辺の心の中を推測する。田辺が教えている塾の生徒が亡くなり、その犯人が時間売買に携わる人と分かれば、田辺も犯人を捜したくなるのだろう。
「おい、聞いているのか。愛理!」
愛理は考え事をしていて、大河の言葉に返事をするのを忘れていた。田辺が通っている塾には当然、愛理も通っている。亡くなった彼がどのような人物だったのか、田辺に聞いてみる必要がある。
「今日にでも聞いてみるか」
「誰に何を聞くんだよ。そもそも、お前はいつもいつも」
ぶつぶつと大河が文句を言う声が聞こえるが、愛理は無視することにした。教室に入り、自分の席に着きつつも、犯人の手がかりをつかめるかもしれないことにひそかに胸を躍らせていた。
「皆さんもご存じの通り、この学校に通う、6年生の不二井未来亜(ふじいみらあ)君が亡くなりました。犯人はいまだに捕まっていません。今日からしばらく集団下校になりますので、皆さん、気を付けて帰るように」
朝のHRで担任が先日の事件の話をしているのをぼんやりと愛理は聞いていた。事件が起こり、学校側は記者会見をしていた。校長は亡くなった児童の普段の様子を涙ぐみながら説明し、こんなことになって、学校側も私も大変悲しんでいると訴えていた。犯人の一日も早い逮捕を願っていると話していたことを思い出した。
担任も話していた通り、当分の間、登下校の際には、一人ではなく、保護者や同じ通学路になる児童と一緒に行動するように伝えられた。
『面白いことになっているな。犯人は子供なら誰でもいいというわけではないのにな』
同じ通学路を使う児童と一緒に帰るとすれば、当然、大河と一緒に帰ることになる。他にも数人の児童と一緒に帰宅する中、愛理の頭に白亜の声が聞こえた。
「誰でもいいわけじゃないの?」
『当たり前だ。そんな無差別に襲うことはない。別に殺すことが目的ではないからね』
「ということは、殺された被害者の共通点を見つければ、次の被害者になりうる人の
予測ができると」
「愛理ちゃん、何をぶつぶつ言っているの?ちょっと、不気味だよ」
白亜の声は愛理にしか聞こえないため、愛理がぶつぶつとつぶやく声は、周りには不審に映るようだ。慌てて、何でもないとごまかしながらも、必死に考えを巡らせる。その様子を大河がじっと見ていることに愛理は気づかなかった。
家に帰ると、愛理はすぐに自分の部屋に直行する。いつもなら、リビングにいることが多い母親に声をかけるが、白亜に聞きたいことがあったので、そのままリビングを素通りして部屋に急ぐ。
「白亜、田辺先生と話がしたいけど、できるかな」
『できないことはないだろう。田辺に電話でもすれば済む話だ』
ぼんと音を立てて、白亜が姿を現す。白亜は退屈そうに愛理のベッドに倒れこみ、ゴロゴロと寝転がる。
「それじゃあ、お母さんに知られちゃう」
『構わんだろう。塾の先生と話をしたいと言って、電話を部屋に持ち込めばいいだけだ』
「それはダメって、白亜はわかっているでしょう!」
『ふむ。まあ、試しに言ってみただけだ。それで、田辺に何を聞くつもりだ。犯人なら、もう次の標的を決めているところだと思うけど。僕でもわかる簡単な共通点だから、愛理が知りたいなら教えてあげてもいいよ』
田辺と簡単に話ができない以上、白亜に聞くのが手っ取り早いと思うが、どうにも白亜を信じ切れていない愛理だった。やはり、人外の存在というものからの話を全面的に信じることはできなかった。しかし、一刻も早く情報が欲しい愛理は、藁にもすがる思いで白亜に聞くことにした。
「お願いします。私にもわかるように説明お願います」
『ふむ、あいわかった』
急にやる気を出したかのように、すくっと愛理のベッドで立ち上がると、胸を張ってふんぞり返る。こうして、白亜の被害者の特徴、共通点に関する講義が始まった。
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