25

 うん、と、翔真はあっさり頷いた。

 「自分のやったこと、分かってる? 慎一郎さんみたいなタイプが自分を責めるのに、十分なことしていると思うけど。」

 「……。」

 亮輔くんはかわいいから。なんでも好きにさせてあげたいかな、と言ってくれたときの、慎一郎さんの眼差しを思い出した。あんなに真摯に凪いだ目をして、俺と向き合ってくれたひと。俺は、そのひとから逃げたのだ。それも、なにも言わずに、慎一郎さんが寝ている間に。

 「……俺が、悪いね。」

 「だから、そう言ってんじゃん。」

 「ごめん。」

 「俺に謝ってどうなんの?」

 「……ごめん。」

 翔真は呆れたみたいに息をついて、大きな猫目で俺を見上げた。

 「前にも言ったと思うけど、あんたにも可哀想なとこはあると思うよ。親のこととかね。どうせまた、お母さんの夢でも見て逃げ出したんでしょ。」

 俺は自分の夢さえ翔真に言いあてられたことに驚いて、息を飲んだ。翔真はそんな俺を片頬で笑った。

 「俺と付き合って五年くらい? ずっとあんた、変わらなかった。ずっと。諦めたよ。変わりたくもないんだろうと思って。ずっと、お母さんの夢見てはうなされて、男好きになることに罪悪感ばっかで。……だから、諦めたの。諦めた途端に、他の男に惚れられるとは思わなかったけど。」

 「……え?」

 翔真の言うことが、理解できなくて戸惑った。諦めた? 翔真が、なにを?

 そんな俺を見て、翔真は口元に手を当てて、くくく、と低く笑った。

 「鈍くて馬鹿だね。ほんとに、変わらない、ずっと。」

 その自覚はあって、だから今度の翔真の言葉はちゃんと理解できた。俺が反射みたいにまた、ごめん、と謝ると、翔真はしなやかに肩をすくめた。

 「なにを責められてるのかも分かってないくせに、謝らないほうがいいよ。」

 「……、」

 ごめん、と、また言いかけて言葉を飲み込んだ。翔真はそんな俺を見て、楽しそうなのに妙に寂しそうな、不思議な目をしてまた笑った。

 「諦めるのが早かった俺も多分悪いね。慎一郎さんは、多分まだ諦めてない。指輪外せなかった自分が悪いって言ってたよ。」

 指輪外せなかった?

 まさか、俺ごときのために、離婚を考えていたとでもいうのか。

 俺がぎょっとして思わず硬直していると、翔真は俺を見上げてため息交じりに言った。

 「慎一郎さんの奥さんは、とっくに亡くなってるよ。」

 「え?」

 「じゃあね。上手くやりなよ。」

 翔真は、丁度開いた電車のドアから、するりとホームに降りて行った。俺が一度も降りたことのない駅だった。

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