4② ー書庫ー

「地図はここになりますが、他国となると詳しい地図はないと思います」

「普通そうですよね。うちにも地図はありましたけど、自国ですら簡単な領土しか載ってなかったので、難しいだろうな」


 ブルイエ家には古い地図ならあったが、さすがに他国の地図はなかった。周囲の国くらいなら名は知っているが、この国の名は聞いたことがない。

 それでも確認はしたい。フィオナは地図を広げて自分がどこに住んでいたかを調べることにした。


 フィオナがいた場所はオリシス国。イリノエア地方、テルンの町。まずは国を探すかと他国の国の地図を探し始めた。


「————ない。なんでこんなに地図があるのに、他国のがないのー!」


 いや、他国の地図もあったが、フィオナの国の地図がない。国境を挟み隣国やその付近の大まかな地図はあるが、その中にフィオナの国は見付からなかった。

 文字は読めるのだから、言語は同じだ。それなのに、フィオナの国がない。


「はあ~」

 この国から余程遠い場所から来たのだろうか。それとも、全く関係のない世界から来たのだろうか。

 そう思いながらかぶりを振る。古い魔法の戦争はフィオナも知っている。


 一国で起きた戦争。つまり内戦が続き、幾つもの国に分かれたと言われている。古い歴史の話だ。


「ってことは、その分かれた国のどれかが私の国なんだけど」

 地図があるほど近い国ではないのかもしれない。


「フィオナ様、お茶になります」

 諦めてなにか分かる本はないか探していると、リディがお茶とケーキを持ってきてくれた。可愛らしい茶器に入れられたのは紅茶で、良い香りがした。


 ケーキを食べるのは久し振りだ。ブルイエ家で援助している孤児院の子供たちのためにお菓子などを作ることはあったが、味見以外で食べることはほとんどなかった。食欲がなくあまり口にすることができなかったからだ。


 ブルイエ家は大きな家ではなかったがシェフの腕が良く、フィオナは料理やお菓子の作り方を彼から学んだ。シェフに作らせて子供たちに与えると、父親がシェフを叱るのが分かっていたからだ。そんなものを作るくらいならばうまい料理を作れと言うだろう。


 フィオナが勝手に作り子供たちに与える分には文句は言わない。そんなこと、父親は気付いていなかったが。


 ケーキは見たことのない真っ白な楕円形のもので、ドキドキしながら口に入れると、思った味と違い、口から出しそうになった。


「う、あ、ごほっ」

「フィオナ様!? どうされました!?」


 フィオナは急いで紅茶に口を付ける。

 ケーキは角砂糖を蜂蜜でかためたような味がした。真っ白な部分が全て砂糖でできているようで、中はチョコレートの入ったスポンジだが、これもかなり甘い。


「ごめんなさい。ちょっと、意外な味だったので」

「お口に合いませんでしたか? セレスティーヌ様はこれをお好みでしたので。申し訳ありません」

「セレスティーヌさんは、とても甘党なんですね」


 お砂糖は高価なため、ふんだんに砂糖を使うことがお金持ちの間では主流らしい。ここまで砂糖を使うことは市井ではないそうだ。


 フィオナの住む土地は砂糖は高価ではなかったので、お菓子の種類も多かった。

 甘い物もずっと口にしていなかったため、久し振りの甘い物を堪能したい気もあったが残念だ。そう思いつつ、フィオナはついと顔を上げた。


「厨房を見せてもらうことはできますか?」

 そう提案すると、リディは少しだけためらう顔を見せた。

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