触れる時②

「どうも初めまして。ドマドナと言います。ナマガルとは十年以上の付き合いになります。歳もそれなりに近いんですよね。よろしくお願いします」


 茶髪で新宿や渋谷にいそうな見た目だ。少しイケていると言った方がいいのかもしれない。二十代後半から三十代前半くらいなのだろうか。少なくとも俺よりは年上だ。


 順番に自己紹介をしていく。その度に、ドアドナは「あー」と声を出した。

「いや、皆さんラジオで聞いたことある名前だったのでつい。みなさんメール投稿者だったんですね」

「いや、俺はブルームのラジオくらいしか送っていませんね」

「あっ、僕もです」

「私は色々送ってますよ。ドマドナさんも色んなラジオに送っていますよね。いくつか聴いている番組被っていましたよね」


 花林は少し嬉しそうに話す。俺達があんまり他の声優ラジオの話をしないから、そういうことを話せる人も欲しかったんだろうか。


「そうですよね。市川ちゃんのラジオだけでもいくつかありますもんね。けっこうイベントとか行くんですか?」

「ほぼ全部行ってます。遠いところのイベントは流石に行けていないですけどね。ドマドナさんは?」

「結婚して子供が生まれてからは全然行けてないですね。ハハッ。今日のイベントも半年ぶりくらいの参加ですよ。いやー、昔は軽かったフットワークも今では重くなりましたよ」


 二人の会話は盛り上がっていく。気が合うのだから仕方ないが、少しモヤッとする。別に他の男としゃべろうが関係はないが、ここまで盛り上がるとなると別だ。ただ、自分がそんな感情を抱くのにも少し嫌気がする。


「あー、ドマドナ氏。ベアリン氏とフカジロウ氏は交際してるんですよ。共通の話題はまだまだあるかと思いますが、もう少しみんなで話しましょう」

 俺を見て気を使ったのかナマガルシップスが助け舟を出した。ドマドナもそれを理解して会話を止めた。

「へー、二人ってそういう関係なんだ。まあ、オタク同士で付き合ったりする人もいるから全然そういうのもありなんだけどね」


 少し余裕そうに話す姿はちょっとムカついた。大人の余裕というか、既婚者の余裕というか、少なくとも俺には持っていないものを持っている。

 苦手だな、この人。



「そういえば、ブルームの次のライブってそんなに大きなところなんですか?キャパが倍って言ってましたけど」

「私もさっき調べましたけど、キャパは千五百人ですね。1stライブは満員でしたけどいきなりその倍というのは中々思いきりましたね。でも九月、十月とアニソンフェス、レーベルのライブイベントにも出演しますからそこから興味を持って来てくれる人がいることに期待しましょう」

「いやいや、ナマガル。俺のようにラジオから入る人もいますぜ。気づいたらシングル二枚とも買っちゃったよ」


 ナマガルシップスとの会話にドマドナが割って入る。今年の一月から始まったラジオからブルームというユニットに興味を持ってくれる人も実際にいるという事だな。


「あとは他のイベントと被らないといいですけどね。ユナイトと被ると最悪ですよ」

「サスさん、それってどういうこと?」

「だってそうじゃないですか。ブルームのファンの一部はユナイトのファンでもあるんです。1stライブでも土曜にユナイトのライブがあってそのついでに来てる人も一、二割でしたよ。調べたんです。来場者の投稿を一つ一つ調べたんです」


 サスは少し不安気に早口で話す。ユナイトか。CDを出せば売上は週間ランキング一桁、ライブをすれば一万人規模の会場を埋めてしまう声優ユニットだ。

 これほど力のある声優ユニットはユナイト以外にいない。そして競える声優ユニットがいないのも事実だ。次にユナイトのような人気が出る可能性があるユニットとしてブルームが注目されている。

 その意味でもユナイトのファンがブルームも追っているのではないか。そういう話をナマガルシップスがしていたな。


「ユナイトなんて最初から売れさせる気満々のユニットだったじゃん。1stシングルからビッグタイトルのオープニングを担当してるし、無銭イベントもバンバンやったり、有名な声優のラジオにガンガンゲスト出演して、アニメにも結構な数出させてもらってたじゃん!売れるのが必然のような気がして好きじゃないんだよね。あとファンも一々比較してきたりしてウザいんだよね!」


 花林も色々と思うことがあるのだろう。少し感情的になっている。

「まあまあベアリンさん、ユナイトは下積み時代が少し長いユニットだから、あれでも結構苦労したって話してたよ。まあ力があるのは本当なんだし、そこは認めようよ」


 ドマドナが花林を宥める。もしかしたらドマドナはユナイトに詳しいのだろうか。結構な数のラジオを聴いているらしいからユナイトのラジオを聴いていてもおかしくはない。ということは、ここは話題を逸らした方がいいのかもしれない。


「まあまあ、とりあえずは次のイベントを楽しみましょうよ。七月にはリリースイベントがありますし、みなさんも行きますよね?」

「あー、俺は無理っすね。やっぱり子供が生まれてからイベントに行きにくくなってね。行けても十二月の2ndライブかな」


 こいつとは本当に合う気がしないなと思った。話すのは初めなのに、ここまで色々と合わないことがあるんだな。やっぱりこの人は苦手だ。

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