第7話 勇者

『魔王』誕生の知らせを受け、グラン帝国では勇者召喚の儀が執り行われた。

その際、最上級神官のセネイ・グランツが意識を失ったが、他のものは無傷のまま、無事に勇者召喚の儀は成功した。


「っ、ここ、は…?母さん…。母さんはどこに!?トラックは!?」

「勇者よ。ここは偉大なるグラン帝国。お主は、来る災厄からこの国を救うべく異世界より召喚されたのだ。我々はあなたを歓迎する。」

「勇者、異世界…?何を言ってるんだ?」


異世界から召喚されたのは、黒髪黒目で眉目秀麗な若い男だった。

名前は紅城こうじょう統夜とうや。普通の男子高校生で、トラックに轢かれかけた母を助けて命を落とした。


混乱している様子の彼に歩み寄ったのは、金髪で紫の瞳の貴族の少女だった。

「お初にお目にかかりますわ。私は、グラン帝国第一階級貴族のフィオナ・ジュールでございます。本日は皇太子殿下がご政務に行かれていますので、婚約者の私が代理を務めさせていただきます。」

彼女が美しい礼をした瞬間、ドアが勢いよく開け放たれる。


「ごきげんよう!あなたが勇者ね。」

入ってきたのは、茶色の短い髪にピンクの花の髪飾りをつけた愛らしい少女。

「私は、聖女ミラよ。勇者と聖女、一緒に頑張りましょうね!いやぁ、周りは貴族ばっかりで退屈してたのよ。名前は?どこから来たの?ねぇ、教えてよ。」


統夜はあっけにとられ、何も話せなかった。

「お待ち下さい、ミラ様。勇者様は来たばかりで混乱していらっしゃいますので、少し控えめになさってください。」

「あなた、誰に向かってそんな口を聞いているの!?無礼でしょう!私は聖女よ!まったく、気がそれた。もういい、帰るわ。あなたのせいよ、フィオナ。覚えておきなさい。」


嵐のように来て、嵐のように場をかき乱し、嵐のように帰っていった。

「勇者様、申し訳ありません。まだ礼儀がなっていなくて。お部屋にご案内します。それから、この国の説明と、まずはお食事ですね。我が国の特産品でおもてなしさせていただきます。苦手な食べ物はございますか?」


「いや、特には。」

少し落ち着いた様子で答える。

「よかったです。それではさっそく、お部屋にご案内します。お荷物ございますか?」


統夜があたりを見回すが、着の身着のままだ。

「なにも、ない…。」

「承知いたしました。メイア、クリス、ご案内を。シェフ・ルワンナ、お食事は、食べやすいものを用意して。ソルとレオはお風呂の用意を。神官たちはお疲れ様でした。休んでいいわ。私は、皇帝陛下に成功のご報告をしてくるから。それと、オルガはエレア殿下にお手紙を書いて。その他は各自考えて行動なさい。解散。」


素早く的確な指示を出すフィオナと、それに従う召使たち。

統夜は圧倒されつつ、その連携に感動を覚えていた。


その後、皇帝への報告を終えたフィオナと明るい召使たちによって、統夜は少しずつ生活に慣れていった。



勇者召喚の噂は、魔王シャナのもとへも届いた。

「勇者、か。」

「はい。人間の伝承によれば、人以外の魔族を統べる王、魔王を倒すために救国の英雄、勇者が異世界より現れ、凶悪な魔王を討ち滅ぼし、人間に平和を与える、といった内容だったでしょうか。」

「クロード、物知りね。」

「当たり前です。いつでもなんでもお聞きください。」

「頼りにしているわ。でも、放置は良くないわよね。やっぱり、戦わないとだめかしら…?」

「とにかく、旧王たちを呼び寄せましょう。それで、会議を執り行い、今後の方針を決めるのです。それならみんな納得するはずです。」

「それもそうね。よし、お手紙書くわよ!」

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