第6話 とある昔話と第四の同盟

「お姉様!見てみて〜、これ。かわいいでしょ。」

「美弥。かわいい花冠ね。どうしたの?」

「私がつくったの〜!お姉様に似合うと思って。だからね、あげる!」

「あら、くれるの?ありがとう。」


和国のとある庭園。

花の咲き乱れるそこに向かい合って座るのは高貴な二人の姉妹。

和国の王女、鈴雛花りんすうか鈴美弥りんみやである。


「雛花、美弥。ちょっと来なさい。」

「あら、お父様だわ。私達を呼ぶなんて、珍しいわね。」

「なにか、あったのかしら。」


二人が広間につくと、父だけでなく、長髪の怪しげな雰囲気の男もいた。

その男は、私達を見てフッと不敵に微笑んだ。


「雛花、美弥。こちらは、仙人の王であるファン・ルーリャン様だ。この度は、わざわざ和国まで来てくださった。挨拶しなさい。」

「お初にお目にかかります。精霊王、鈴凰雅の娘、雛花にございます。こちらは妹の美弥です。年は、私が十、妹が六でございます。どうぞ、よしなに。」


男、ファンはにっこりと微笑んで、初めて口を開いた。

「これはこれは、ご丁寧な挨拶をどうもありがとう。私は、先ほど紹介に預かった通り、仙人の王であるファン・ルーリャンだ。よろしく。」

すごく凛としていて芯があり、よく通る声だった。


目を上げて彼の様子をうかがうと、目を奪われてしまった。

美しい深緑の髪、翡翠色の瞳、孔雀の羽を使った豪奢な服。

とにかく緑色で、とにかく美しかった。


「それで、本題に入ろうか。」

「そうでした。御用とはなんでしょうか。」


「私は、二人の内どちらかを、養女として迎え入れたいと思う。もちろん、すばらしい待遇を約束しよう。」

「なっ、養女ですと!?それは先に言ってください。それで、対価は何をいただけるのでしょうか?」

投げやりに聞いた父に、ファンが冷静に答える。


「対価は、仙境の支配だ。私には後継ぎがいなくてね、どちらかに仙王の座を継いでほしいんだ。」


『仙境の支配』。この言葉は、父の心を掴んだ。

そしてファンは、その瞳が輝いたのを見過ごさなかった。


「それで、どちらの娘をご所望で?和国としても、残ったほうが後継ぎとなるので、それも考慮していただきたい。」

「私に選ばせてくれるのかい?ずいぶんと太っ腹だね。」


姉の鈴雛花は、見た目は似ていないが、状況をしっかり理解しているだろう。

妹の鈴美弥は、見た目が似ているが、知らない人の中で生活できるとは思えない。


「じゃあ、美弥を…。」

「お待ち下さい!どうか私をお連れください。妹はまだ幼いです。どうか、妹を家族と引き離さないでくださいませ。」


その時、ファンの瞳の色が変わった。

そして、雛花の瞳の色も。

「なっ…?」


『共鳴』。

仙人に受け継がれる性質で、運命の人と出会ったときに、その人と体の一部を共有するというものだ。

今回共有されたのは、瞳。お互いの見ている景色を共有できるものだ。


また、そのときに特性が付与されることがある。

今回付与された特性は『魔視』。魔力の流れを見ることができる能力だ。

瞳の色は赤色で、それが薄ければ薄いほど強力である。二人の瞳は薄い桃色だった。


つまり、ファンと雛花は運命の相手であり、魔視を付与された強力な瞳を共有しているということだ。


「これはこれは、あなたが私の運命の相手ですか。」

「あの、これは?」

「まぁ、追って説明しますよ。しかし、これでは美弥姫より雛花姫のほうが私に似ているな。雛花姫、あなたの言う通りにしましょう。一緒に来てくれますか?」


ファンが手を差し伸べる。

「よろこんで。」

その後、雛花は仙人の名に寄せ、名をスー・リンと改めた。



こうして、仲の良かった姉妹は引き離された。

そして、美弥はこのことを年が経ってから理解し、姉を守ることを決意した。


そんななか彼女のもとに届いた知らせは、吸血王シャナ・クレフィリアが人型種を支配したという知らせだった。

守ると決めた姉は、あっけなく取られてしまった。

雛花は姉が不当に支配されていると誤解したまま、シャナへの怒りを積もらせていた。そして、必ず姉を助け出すと決意を固めていた。


その結果が今回の襲撃だったのだ。


「改めて、誤解していたとはいえその命を奪おうとしたこと、謝罪いたしますわ。お姉様がきちんと尊重されているとわかりましたもの、もう不当とは思いませんわ。どうぞ、私を罰してください。」

「では、私と同盟を結びましょう。」

「えっ、そんなことでいいのですか?」

「えぇもちろんよ。今回はそのために来たんだもの。」


こうして無事和解し、シャナは6種族の王となった。そして7種族間の同盟も締結された。



人間の国グラン帝国。


「伝承にある魔王が誕生した。よって、勇者召喚の儀を執り行う。」

「各々、可不足無きよう万全に準備せよ。」

「はっ!」

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