第8話

「一条くーん」

「⋯⋯」


 なに、と口パクで返される。


「どこ行くの?」「ねえねえ」「教えてよ〜」「一条くんと普通に喋りたいの」「無視しないでよ〜」「ね、ここ人いないじゃん?」


 みたいな事をずっと言ってると、多分一条くんは折れた。


「はー⋯⋯ライって粘着質だね」

「どうも〜」


 いや、褒めてないからね? とツッコまれる。いつかテレビで見た感じのやつ再現してみたんだけど、観客はいないし、一条くんはなんか無感情っぽいし、つまんないな。⋯⋯全部僕が勝手にしてることだけど。


「で、何喋りたいの? ここら辺なら⋯⋯まあ、いいよ」

「え、そっちが話題振って? 僕、そこまでは考えてないや」


 ⋯⋯あ、呆れられたな。


「⋯⋯最近、野球が盛り上がってるよね」

「うん、そうだね〜。誰か応援してる人いる?」

「⋯⋯特には。そっちは?」

「⋯⋯同じく」


 ⋯⋯会話終了しちゃった。


「えっと、好きなスポーツは?」

「⋯⋯サッカー?」

「いや、語尾にハテナ付けながら返さないで?!」


 はいはい、とあしらわれる。⋯⋯むう。


「そもそも、俺、あんまスポーツしないの」

「僕も〜」

「でも、俺、普通にスポーツなんでもできるよ」


 ⋯⋯っはー、うっざ。


「そーですか」

「ふふっ、一応これでもモテてるんで。やっぱ生まれつきできるからな〜」


 生まれつきって⋯⋯いーなー。ってか、自分でモテるとか言うの⋯⋯?


「ライもイケメンだよね。モテてこなかったの?」

「はー? どこを見ればイケメンだと。モテるわけないでしょー?」


 神様は絶対に一条くんを贔屓した。そうだ、それしかない。運動も勉強も、顔も⋯⋯まあ、性格も二重丸だなんて。これは贔屓だ。


「⋯⋯え、本気で言ってる?」

「ん? うん。モテるとは正反対の道を歩いてきたけど?」


 まあ、学校なんてあんまり行ったことないんですけどねー。⋯⋯病気で。


「え? ライって、え、無自覚? えー、男子の無自覚はナイなあ⋯⋯」


 はあ?


「僕無自覚じゃないもん」

「はは、どうだか」


 どれだけ否定しても言いくるめられてしまう。

 ⋯⋯あれ、僕の判断合ってたかな? 一条くんの性格って良いの? これ、悪くない?


「っはー、おもしろー」

「僕、意外と一条くんと仲良くなれるかも〜」

「それは良かった。俺も思ってたところ」


 ⋯⋯はーあ。一条くんは性格、悪い時も良い時もあるな。全く、よく分からない。⋯⋯彼が友達想いなのは知ってるけど。


 じゃあ、教室戻ろ、と声をかける。そこからは居心地の良い無言が続いた。

 教室のドアをあける。⋯⋯けれど。そこには、日和の荷物しか無かった。

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