第6話

「⋯⋯もうライに出会ってから1週間か〜。早いね」

「そうだね」


 あれから特に変わりは無い。僕はなんにもできなくて、日和は虐められたまま。一条くんも相変わらず日和に絡んでいる。⋯⋯何も、変わっていない。


 そして今日は⋯⋯死神と会う日だ。死神に、気になっていた事を質問しようと思う。

 ⋯⋯いつ、会うのかな。わからないから⋯⋯ちょっと緊張してしまう。


 でも。全然その時はやって来ない。もう午後になってだいぶ経つのに⋯⋯来ない。

 学校も終わって、今は日和の家にいる。


「日和っ、何かしよう?」

「うん、何する?」


 あ! そうだっ!


「イラスト描かない?」

「えっ? イラスト? 描けるの??」


 描ける⋯⋯というか。


「僕は苦手だけど、日和のイラストが見たいんだ〜」


 日和は、すっごい綺麗なイラストを描くからね。透明感が凄くて、引き寄せられるなイラスト。


「そう⋯⋯? でも、良かった。幽霊だから⋯⋯さ」

「そっか。それもあったんだ」


 ふふ。僕、普通にし過ぎて、もう、幽霊ってこと忘れそう。

 ⋯⋯あ、死神。忘れてた。あんなに緊張してたのに。


「僕は描かなくていいよ。日和の見てる」

「うん。頑張るね」


 そして、他愛無い会話をしながら日和は着々とイラストを進めていく。

 ⋯⋯すご。


 話しかけようとしたとき、僕は急に浮遊感と吐き気に襲われ⋯⋯意識を手放した。


 ───そして、目の前に死神がいた。


「久しぶりだな」

「久しぶり。ねえ⋯⋯こんな気持ち悪い感覚にさせて連れてくる必要ある?」

「⋯⋯すまない。これしか出来ないんだ」


 ふーん⋯⋯。仕方ないか⋯⋯。まあ、大分治まったけどね。


「で、どうだ? 幽霊ライフは」

「んー、まあまあ、かな」


 まだ、心残りは⋯⋯何も進んでいないし。


「質問はあるか?」

「あ! ねえ、幽霊の細かい事とか、成仏の内容とか⋯⋯伝えてもいいの? 一条くん⋯⋯あ、星降神社の子は知ってたけど」

「⋯⋯星降神社、ねえ⋯⋯」


 空気が、変わった。

 思い出すような、慈しむような、そんな⋯⋯空気。


「まあ、あそこが知ってるのは事実。ただ、他言無用だ。分かったな?」

「うん、分かった」


 ⋯⋯じゃあ、どうして知っているのだろうか。そう、思わずにはいられなかった。


「⋯⋯もう無いな。俺からもいいか?」

「え? あ、うん、いいけど」

「なぜ、ライは、ライと名乗った?」


 ⋯⋯ライ⋯⋯か。確かに本名でも良かった。でも。


「『僕』を好きになって欲しかった、からかな。」

「そうか」


 聞いてきたくせに、凄く簡単な返事しか来なかったけど、僕は満足した。だって、死神が、凄く嬉しそうな顔をしたから。


「⋯⋯ライなら、俺の秘密を、呪縛を解けるかもな。星降神社の文献を探すといい」


 え? 死神の⋯⋯秘密? 呪縛?

 ⋯⋯なに、それ。星降神社と関係があるの⋯⋯?

 なんか、興味湧いてきた。調べよう。


「ふふっ。⋯⋯じゃあ、次会うのは成仏してからだな。また、な」

「っ、あ」


 成仏してから? と聞く暇もなく、また、あの目眩が押し寄せてきて、フラフラし、倒れる。

 ⋯⋯想像よりも何倍も早く別れの時間がきたな⋯⋯。


 あー⋯⋯またかよ。この症状は病弱な僕のあの頃を彷彿とさせて、苛立つ。

 何も出来ない僕。いや、人を傷付けることしかできない、僕。

 ⋯⋯あんなの、もう嫌だ。


「───イ? ライ? 大丈夫?」

「ぁ⋯⋯日和」


 また、目を覚ますと目の前に日和が。⋯⋯デジャヴ。


「さっきまで喋ってたのに急に黙るし、倒れるし心配したよ⋯⋯」

「ごめん、大丈夫だよ」

「そう⋯⋯? 私、どこかで同じようなの、見た気がして、もう、なんというか⋯⋯心配で心配で堪らなかったよ⋯⋯!」


 え。もしかして⋯⋯僕の、生前の僕の⋯⋯こと⋯⋯?


 じゃなくて、誤魔化さなきゃ。


「そうなんだ。なんかの本とかじゃないかな? ほら、日和本好きじゃん」

「そうかもね」


 何とか納得してくれて一息つく。

 ⋯⋯『俺』、何回日和に迷惑かけるんだろう。自分のことがどんどん嫌いになっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る