第5話

 なんで!? どうして!?

 確かに、死神に人数は言われなかったけど、心残りに関係している人、だけだよね。だから本当にはじめましてのこのイケメンには見えないはず。⋯⋯じゃあ、どうして?


「俺、霊感あるんだよね〜」


 ⋯⋯ああ、そういうこと。だから見える、と。


「でさ、どうしたの? ⋯⋯あ、俺は一条いちじょう陽太ひなた。君は?」

「僕は⋯⋯ライ!」

「ライか。よろしくね」


 うん。⋯⋯じゃなくてっ、聞きたいことがあるんだ。


「一条くんはなんで日和に関わるの?」

「ふふっ⋯⋯気づいてるくせに」


 っ⋯⋯。急に明るい声音から、冷たい声音に変わった。

 ⋯⋯これは、日和に本気っていう事を、肯定しているのかな。いや、それしかない。


「⋯⋯うん、気付いてる。試すような真似してごめんね」

「大丈夫だよー。で、君はどーしてこっちにいるの? 何が心残りなの?」

「っ、え」


 知ってるの⋯⋯?


「あー、俺さ、ちょーっと有名な星降ほしふり神社の一人息子なのねー。それで───」

「───え!? あの!?」

「う、うん」


 僕の勢いに引かれちゃったかな⋯⋯。


「僕、結構神話とか、好きなの! 日本神話によく出てくるよね!! え、凄い!!」

「そうかな⋯⋯ありがと」


 で!と話を戻される。⋯⋯そうだった、違う話をしてたんだった。


「俺ん家、特殊だから、あの世のこととかちょーっとだけ知ってるんだよねー。昔の書物とかに載ってるから。

 心残りがあって、こっちに残ってるとかー⋯⋯さ。まあ、知ってるのはそれくらい」

「へえ⋯⋯」


 僕とあんまり変わんないな、と零すと笑われる。⋯⋯だって、幽霊になっても説明あんまり無いし、知らないよ。むう、と不貞腐れる。


「ごめんって」


 ⋯⋯笑いながら言われても説得力無いんだけどなあ⋯⋯。


「⋯⋯ん」

「でさ、日和には見えてるんでしょ? じゃあ、やっぱり、日和に関する心残り⋯⋯か」


 小さく、縦に頷く。


「というか、どうして死んだの?」

「⋯⋯」

「っ、あ、ごめん! こんなこと聞いて」


 どうして死んだか⋯⋯? そんなの⋯⋯。


「病気だよ。それだけ」

「⋯⋯ごめん」


 僕の声が、冷めたように、突き放したように聞こえたのだろう。事実、そういう声音だったし。

 ねえ⋯⋯謝られても、どうとも思わないよ。


「僕は⋯⋯日和と幼馴染でね。それでいつしか⋯⋯日和のことが好きだった」

「⋯⋯うん」


 僕、なんで語ってるんだろう。一周まわって恥ずかしくなってきたな。


 一条くんも、でしょ? ⋯⋯そう聞きたかったのに、どうしても僕は聞きたくなくて、動かなかった。⋯⋯ああ、惨めだな。


「あ⋯⋯予鈴鳴ったねー。戻ろっかあ」

「⋯⋯ねえ、日和が今どういう状況が知ってる?」


 最後に、これだけ聞きたい。一条くんが、いじめを⋯⋯知っているのか。


「え? なになに、どーしたの?」

「⋯⋯ううん、なんでもない」


 きっと一条くんは自分を責める。

 ⋯⋯まだはじめましてのような関係だけど、それでも、彼が意外と良い人だということは⋯⋯まあ伝わってきた。から、今はまだ、伝えない。



 ⋯⋯ねえ、僕のこの時の決断は、合ってた?

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