動物病院の飼い猫、ゴクラクの視点で語られる、傑作アニマル&ヒューマンドラマです!
ゴクラクは猫らしく一見斜に構えていますが、レントゲンで本当に体が透けてしまうと思いこんでいるような可愛いところも。
このゴクラクと、彼以上に斜に構えた幽霊猫マルタ、喧嘩っ早いけれども強くはない半野良猫のヤスジロウを中心に、物語は展開していきます。
巧みな心理描写、豊かな文章表現、ユーモアあふれる掛け合い、じわじわと盛り上がっていくストーリー。
やがて訪れるクライマックスとラストは、涙なくしては語れません。
人間は人間、動物は動物、心が通じあうなんて幻想だというものの見方もありますし、そういう見方もときには大切だと思いますが、この物語を読むと、人間と動物のあいだにも固い絆が生まれることを信じずにはいられません。
「人間なんてただの下僕だにゃ。いつまで寝てるにゃ。メシを寄越すにゃ」
と思っているようにしか見えない猫さんも、心の底ではきっと私たちを愛してくれている……はずです!
動物病院を舞台にした、オムニバス形式の、命を主題にした作品。
すごいです。どんどん、深みが増していきます。
まず、描写の使い分け。
弾む部分はしっかりと弾ませ、宥める場面はしっかりと宥める。
文章の使い方。表現の仕方。特に、見えないものに対する筆遣い。
最新話まで読んでの所感ですが、プロの所作だと思います。
そして何より、作者様の命に対する視線。
ときに残酷で、それでもなお息づき続ける命に対する作者様の、迷いながら目を逸らさない圧倒的な愛情が、読み手を心ごと震わせます。
稀有でしょう。この物語。
ハッピーだけでは済まないので、その覚悟はいりますが、
それでもなお、この物語に身をゆだねる機会を得たことを、幸福に思います。
2025.2.20 レビュー投稿
『誰がために猫は鳴く』
――吾輩も猫である。
タイトルはヘミングウェイ風、書き出しは夏目漱石風。
誰もが知る名作を彷彿とさせるこの作品……。
だかしかし! 決してまがい物ではありません。
動物病院を舞台に、生と死に真剣に向き合った猫ドラマなのです。
物語の主な進行役は、動物病院で飼われているゴクラクという名前のオスの黒猫。彼はそんじょそこらの動物奇想天外とは一線を画す極めて内省的且つ人間顔負けの思考を持っています。
もうひとり(と言うか、もう一匹)、ゴクラクと対を成す存在としてマルタという白猫が登場します。彼はこの病院で死を迎え幽体となって棲み続ける、謂わば地縛霊です。
ゴクラクが生者の代表格ならマルタは死者の代表格といったところでしょうか。
毎日ここには様々な動物と飼い主たちが訪れます。そして、悲しい別れや切ない事情に遭遇することになります。
けんかの傷が絶えないヤンチャ猫、不慮の事故で助かる見込みのないハムスターを抱いて泣きじゃくる女の子、中には、行方不明になった飼い主をずっと待ち続ける白内障の老犬もいたりします。
ゴクラクはそんな動物たちを見守り、時には心を通わせ、力になろうとネコちゃんなりに頑張ります。
片やマルタは、これがまた……! 途轍もない能力を持っていました。それは、彼が幽体となってまでもこの世に居続ける意義でした。
ゴクラクとマルタは互いの存在を知りながらも馴れ合うことはなく、むしろ警戒心すら抱きながら、それでも認め合っています。
何と言っても、このふたり(と言うか、二匹)の会話がすごい。
「全球凍結」(ネコちゃんの全肉球が凍結するってこと?)
「ブラックホール」(どっかで聞いたことある)
「事象の地平線」(何のこっちゃ?)
そういった難解なワードが次々と飛び出すのです。
ただでさえルッキズムの頂点に君臨する猫が、実は人間を凌ぐかもしれない頭脳だったという驚き!
ネコちゃん、もはや無敵であります。
ペットを飼ったことのある人なら、もちろん……否、そうでなくても、動物たちの可愛さや飼い主を想う無垢な気持ちに涙があふれます。
不思議と生きる活力が湧いてくる可愛くて愛おしい動物たちの物語、
『誰がために猫は鳴く』
心を込めて、皆様にお勧めします。
第8話までのレビューとなります。
主人公ゴクラクという名の猫の視点から綴られる風変わりな物語。
奇抜で型破りな作風にまず多くの読者が引き込まれることでしょう。
住処は飼い主の家ではなく動物病院といところが魅力ポイント。そこで出会う棲みついた幽霊猫のマルタや飼い主の都合で居候となった老犬ローズ婆さんも目から鼻に抜けるほど個性的です。
特筆したいのが、まるで人間のような観察眼、眼光鋭い眼識を併せ持っており、動物たちが人間らしい一面として描かれ物語に深みを与えている点でとても味わい深いです。
動物同士の掛け合いや医療スタッフへの関わりを描いた想像力豊かな作風に時間を忘れてホッコリしてしまいますね。
ある意味で人間よりも人間らしい動物模様を描く様は、一度動物にならないと書けないのでは?
そう勘繰ってしまうほど巧みな想像力の上に成り立っている本作にかける描写力に凄みを感じます。
序盤から早くも楽しくて仕方がありません。
あなたも猫の目になって奇想天外の先々を追いかけてみませんか?