かわいくて愛しくて涙こぼるる
- ★★★ Excellent!!!
『誰がために猫は鳴く』
――吾輩も猫である。
タイトルはヘミングウェイ風、書き出しは夏目漱石風。
誰もが知る名作を彷彿とさせるこの作品……。
だかしかし! 決してまがい物ではありません。
動物病院を舞台に、生と死に真剣に向き合った猫ドラマなのです。
物語の主な進行役は、動物病院で飼われているゴクラクという名前のオスの黒猫。彼はそんじょそこらの動物奇想天外とは一線を画す極めて内省的且つ人間顔負けの思考を持っています。
もうひとり(と言うか、もう一匹)、ゴクラクと対を成す存在としてマルタという白猫が登場します。彼はこの病院で死を迎え幽体となって棲み続ける、謂わば地縛霊です。
ゴクラクが生者の代表格ならマルタは死者の代表格といったところでしょうか。
毎日ここには様々な動物と飼い主たちが訪れます。そして、悲しい別れや切ない事情に遭遇することになります。
けんかの傷が絶えないヤンチャ猫、不慮の事故で助かる見込みのないハムスターを抱いて泣きじゃくる女の子、中には、行方不明になった飼い主をずっと待ち続ける白内障の老犬もいたりします。
ゴクラクはそんな動物たちを見守り、時には心を通わせ、力になろうとネコちゃんなりに頑張ります。
片やマルタは、これがまた……! 途轍もない能力を持っていました。それは、彼が幽体となってまでもこの世に居続ける意義でした。
ゴクラクとマルタは互いの存在を知りながらも馴れ合うことはなく、むしろ警戒心すら抱きながら、それでも認め合っています。
何と言っても、このふたり(と言うか、二匹)の会話がすごい。
「全球凍結」(ネコちゃんの全肉球が凍結するってこと?)
「ブラックホール」(どっかで聞いたことある)
「事象の地平線」(何のこっちゃ?)
そういった難解なワードが次々と飛び出すのです。
ただでさえルッキズムの頂点に君臨する猫が、実は人間を凌ぐかもしれない頭脳だったという驚き!
ネコちゃん、もはや無敵であります。
ペットを飼ったことのある人なら、もちろん……否、そうでなくても、動物たちの可愛さや飼い主を想う無垢な気持ちに涙があふれます。
不思議と生きる活力が湧いてくる可愛くて愛おしい動物たちの物語、
『誰がために猫は鳴く』
心を込めて、皆様にお勧めします。