第34話 チーム戦!その①

「あれ、ハカセさんじゃないですか」

「おぉ。 アオリイカさん久しぶりです」


 受付を終えた俺たちは会場で待機していると見知った顔が声をかけてくる。以前の大会で俺が負けたアオリイカさんだ。


「アオリイカさんも今日の大会出られるんですね」

「えぇ。 でも驚きましたよ。ハカセさんと同じチームにオーガさんがいるなんて」


 やっぱり、オガ先は有名プレイヤーなのか。


「自分はオーガさんにお会いするの初めてなので、よければ挨拶を……と」


 俺の隣にいる二人のチームメイトを見てアオリイカさんの喋りが途切れた。


「お、オーガさんって女子高生だったんですか?」

「いやぁ……これには深くて浅い事情がありまして……」


 チーム名「オーガ」で登録していたのもあって、アオリイカさんと同じような反応をしている参加者達がこちらを見てざわついていた。


「ハカセって人とルナ嬢は大会でみたことあるけど……あの金髪の子は誰だ?」

「オーガが女体化した?」


 とんでもない発言が聞こえてきたが、正すのも面倒なので無視しよう。アオリイカさんと適当な会話を交えると彼はチームメンバーのいる方に戻っていった。


「ちょっと、なんで私が鬼道先生だと思われているのよ」

「俺と先輩は大会で結果を残して名前が記憶に残っているから消去法で有栖川がオーガになって……いででで耳を引っ張るな!」

「オーガなんて可愛くない名前嫌よ!」


 有栖川は怒りながら俺の耳を掴んだ。女子である有栖川にとってオーガという名前はお気に召さないらしい。それはそうと、とても痛いし、ちぎれるからやめてくれ。


「大会では俺がオーガだから! 有栖川はその代わり俺の名前だから許してくれ!」

「私が天野の名前を……それなら許してあげる」


 危うく耳が一つになるところだった。無事でよかった。


「有栖ちゃん、私と変わってくれないか?」

「嫌でーす。 先輩は天野にもらった名前があるでしょ」


 有栖川は勝ち誇ったように話し、月ヶ瀬先輩がなぜか落ち込んでいた。もしかしてルナ嬢という名前、本当は嫌だったのかな……


「それではこれよりチーム対抗戦を始めます! チーム『オーガ』とチーム『アルゴリズム』はこちらに来てください!」


 さっそく呼ばれた俺たちは店員さんに支持された席に座る。手前から順にルナ嬢(月ヶ瀬先輩) ハカセ(有栖川) オーガ(俺)である。

 対戦自体は三人とも同時に行われるので先方や大将のような剣道方式ではないが、それでもチーム戦ではリーダーを最後にするのが取り決めらしいのでオガ先を最後に設定していた。

 結果的に有栖川が真ん中になり、奥には俺が座ることになったのでこれから俺が戦う相手は相手チームのリーダーである。


「よろしくお願いします」

「あれ、オーガさんじゃないですね」

「いやー、本人急遽仕事が入ったらしくて……」

「それは仕方ありませんね。 ではよろしくお願いします」


 対戦相手は全員大人だった。俺と月ヶ瀬先輩は大人相手も慣れたもので会話しながら対戦の準備を始めているが有栖川は少しだけぎこちない……大会が終わる頃には慣れているといいな。


 今回の大会はスイスドロー方式と呼ばれる形式で行われている。シンプルに言えば負けても次の対戦がある。最終的に勝ち星の多いチームが決勝に進む方式だ。これなら有栖川も間違いなく経験値をたくさん得られるだろう。


 三十分後、全ての卓の試合が終わった。


 俺× 有栖川× 月ヶ瀬先輩〇 の一勝二敗で黒星スタートとなった。


「ごめん、私が負けたせいで」

「いや、俺も負けてるから有栖川のせいじゃないよ。 先輩は勝ったのに申し訳ないです」

「有栖ちゃんは急遽出場だし、天野君は鬼道先生のデッキなんだ。 私だけ普段通りにやらせてもらっているからね。 気にしないで次だよ次!」


 先輩は俺と有栖川を慰める。オガ先がよりにもよってこんなデッキを選んでくるなんて……好き嫌いせずに俺も普段からこういったデッキを練習しとかないといけなかったと反省。


 続く二回戦は初戦敗北したチーム同士の対決、結果は俺〇 有栖川× 月ヶ瀬先輩〇の二勝一敗で白星を収めた。

 俺の対戦相手の人がコントロールデッキを初めから割り切った……つまるところ想定していないデッキを使っていたおかげで慣れていない俺でも完封勝利だった。


「ま、また負けちゃった」

「まだ試合はあるからな。 今回は俺が相性で勝てたけど、初戦みたいに十分負ける可能性があるから勝ち星期待してるよ」

「毎回勝つつもりで挑んでいるけど、相手の人がうまいのよね……」

「無料で参加できる大会と違って参加費あるからなぁ……慣れている人が多いのは事実だ」


 今日開かれているのは優勝と上位賞しか景品のない大会である。二千円を支払って何も得られない可能性があるなら初めから参加はしない。ここに集いしはもれなく実力者ばかりだ。


 続く三回戦 俺〇 有栖川× 月ヶ瀬先輩〇

 二回戦目と同じような結果で俺たちのチームは勝利した。


 ここで一度昼休憩を挟みます、と大会を管理している店員さんからアナウンスが流れる。時刻は十二時を過ぎてお腹の減り具合もちょうど良かった。俺たち三人は施設内の一階にあるフードコートで昼飯を取ることにした。

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