Part6
着地の瞬間は、少しばかり強い衝撃がかかった。しかしそれもすぐに収まり、蓮也はエレベーター内部の様子を見回す。
「扉も爆破されてんのか……」
エレベーターの扉を見れば、それも天井と同様に爆発で破壊されたようになっていた。
『蓮也の爆薬で破壊しようとも思ってたが……まあいい。ひとまず先に進んで、地上出口を探してくれ』
2人は朱鷺からの指示のままに、エレベーターの外へと歩む。
そこは先程の階とは異なり、エントランスのように純白の世界だった。壁や床はタイル張りになっており、そこに電灯の光が反射することで、眩しささえ感じさせる空間になっていた。
そして、少し歩くとすぐに開けた空間に出た。
歩いてきた方向も含め、4方向に廊下の伸びた、正方形のような場所。
「探してくれってもなぁ……どこにも見当はついてないんだろ?」
明花を背負ったままの蓮也は、横で歩く臥竜に問いかけた。
「そうだね……だからひとまず手当り次第――」
『臥竜! 屈め!』
突然の叫び声が耳元で響いた瞬間、それを上回る音量の音が聞こえた。雷鳴のように一瞬、激しく鳴り響いた乾いた音。
ハンドガンの銃声だった。
蓮也と臥竜は、その音の発信源を見る。左方向に立っていたのは、全身黒ずくめで右手に拳銃を握った人間。
『看守』だった。
臥竜が一瞬にして手元のハンドガンを頭狙って撃ち返すと、そいつは抵抗もなく床に倒れ伏した。
しかし、更なる軍勢の足音も聞こえてきていた。
(臥竜の言葉通りだな……にしたってなんで……)
蓮也は、そんなことを考えた。
リベリアーズはNRFの作戦を何らかの方法で知り得ており、まずは幹部がそれぞれ1人を担当し、その後にエレベーターを爆破して地底下2階へ誘導。
そこで――残った奴を看守に殺させる。
それがプランなのだろうと予測できた。ただ、違和感だって無くなったわけではない。リベリアーズの幹部は確認されているだけで4人。だが、今襲撃を受けていたのは3人。最後の1人はなぜ地底下1階で現れなかったのか、ということ。それと、エレベーター上に生じていた源物質。特異体が関わっているのかということも、大きな疑問だった。
しかし今はそんなことをゆっくり考える暇もなく、なにより蓮也の頭は、『明花を守らねば』という思考でいっぱいだった。
『看守は2人で殺せ。ただ、先に明花をエレベーターの中に置いておけ。上は心配しなくていい。幹部は全員戦闘中だし、看守も見えない』
「一瞬頼んだ。臥竜」
「あいよ。任しとき!」
蓮也は臥竜に看守の対応を任せ、浮かぶ思考のままに背後のエレベーターへと駆け込む。足音的にもうすぐ追加の軍勢が到着してしまうため、特訓の副産物とも言える加速力を全力で発揮して走った。
蓮也はエレベーターにたどり着くと、その角に明花を降ろす。看守らが立つ側からは射線の通らない、ひとまずの安全地帯だった。天井に空いた穴からの襲撃というのは朱鷺の言葉が示す通り、心配は無用。
ただ、安心しきっているかといえばそうではないのも現状だった。やっとの思いで再会した妹を手放すというのは、恐怖の拭えない行為だった。
「ここでじっとしてろ。大丈夫。お前には傷1つつけさせない」
蓮也は肩を握って言い聞かせ、早足で前線へと復帰した。
「俺が前に出る! 臥竜は後ろから頼んだ」
「さんきゅ、助かった」
蓮也が臥竜の背を捉えた時には、既に追加の軍勢は到着していた。しかし未だ臥竜は倒れておらず、回避と反撃のタイミングを見極め、ハンドガン一丁で何とか対処していた。
蓮也はそんな臥竜の前に立ち、看守らへ肉薄する。
(何度もやってきたんだ……! 負けない!)
蓮也は、弾丸の動きを完璧に読めていた。それも指の動きを見て発砲タイミングを予測して動くというのではなく、撃たれた弾丸を視界で捉えて避けていたのだった。
動体視力も、それで得られた情報に対する体の動き出しも。
全てが別人のレベルまで引き上げられていた。
2秒と経たず1人の看守の前まで走り寄ると、首元を狙って斬撃を加える。
その出血が床に付着するよりも早く、蓮也は斜め横の虚空に斬撃を放った。
「見えてんだよ……!」
それは、放たれた弾丸を切り裂く為のものだった。
蓮也は弾丸を放った人間の姿を捉え、再び駆け出す。その間にも、臥竜の弾丸によってまた1人と倒れていった。
やがて、3分が経過した時。
それまで純白だった壁と床は、血液の紅に染まっていた。
『一旦どうにかなったか……じゃあ、改めて地上出口を探そう。ああ、その前に、蓮也は明花を背負っておけ』
蓮也は朱鷺からの指示が来るよりも前に、エレベーターへ歩いていた。
中に変わらず明花が座っていたことに安心し、再び背中で担ぐ。
その様子を見守っていた臥竜と共に、蓮也は再び地底下2階の捜索にあたるのだった。
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