Part5

「……あれ?」

 蓮也は確かに、エレベーターの上側にある空間を眺めた。エントランスはかなり明るく作られていたと記憶していたため、この空間にも光は届くはずであった。

 しかし、見えたのはどこまでも続く闇。それだけだった。

『何がどうなって…………待てよ? 蓮也、ライトをつけてくれるか?』

 蓮也と同じものをボディカメラ越しに見ていた朱鷺は、1つの可能性を考えていた。それは、光を当てることによって証明されるものだった。

『やっぱりか……』

「まじかよ……!?」

 光は、闇の中で反射していた。

 それはまるで、黒い水たまりに反射するように。

「源物質が……なんでここに……!?」

 それが示すのは、エレベーター上の空間が『源物質』で埋められていたということ。源物質というのは、今現在特異体のニーロのみが生成可能とされている、ニーロの身体を構成し特異体の能力のいしずえとなる物質である。

 それが、このリベリアーズ基地に発生していた。

『……ニーロとリベリアーズが、協力関係にあるのか……?』

 朱鷺が出したのは、そんな結論だった。

「俺らは……そいつらに嵌められてるって?」

『……状況から考えるに、そう言って差し支えない』

 場の全員の心に、焦りと不安が生じた。

 しかしながら、そんな中で臥竜は口を開いた。

「脱出は……どうします?」

 朱鷺が先程提示した案は、エレベーター上の空間が封じられていては使えない。ならばどうするべきかと、指示を仰いだ。

『エレベーターのかごの方を見てくれるか?』

 朱鷺からの返答に、臥竜と蓮也は下にあるかごを見る。その天井には、ガタガタの円状に穴が空いていた。恐らく、かごを落とした爆破によって破壊されたのであろうと思われた。

『まだ下があるか……だったら……』

 かごは、かなり下へと落ちていた。そのことから、この基地にはもう1階層存在することが伺えた。その事実は朱鷺も蓮也のボディカメラ越しに理解していた。

「……どうするんです?」

 臥竜は疑問を投げかける。

『4人で、下の階に降りてくれ。地上出口の可能性にかけるしかない』

「地上出口って……」

 今現在人類が地上に出るには、NRF基地の地上エレベーターを使う他ないはずである。しかしながら、リベリアーズの構成員は地上で活動していて、その面々も時間とともに変化している。

 それ即ち、リベリアーズ基地にも地上に出る方法が存在している可能性が高いということ。

 朱鷺はそれを――地上出口を用いての脱出を提案していたのだった。

「だって、あるかも分からないし、そもそも地底下2階の構造は把握出来てな――」

 臥竜が知り得ていたのは、精々地底下1階の構造だけである。別の階層にはエントランスしか訪れたことがなく、なんなら地底下2階の存在は今知ったぐらいだった。

 だからこそ、朱鷺へ反論を返そうと試みた。

 しかしそれは、途中で遮られた。

『やるしかないんだ。このままそこに居れば、全員倒れる』

 朱鷺としても、予想外の出来事だった。それによってこの作戦に参加した全員が、命の危機に瀕していることも理解していた。

 だから、行動を命じる他なかった。

 動かねば、いずれ死んでしまうと予想出来たから。少しでも、反抗しないといけなかったから。

「全員が下に?」

『ああ、こうも予想外が重なっては、一度立て直した方が懸命だ』

 ひとまずは明花を外に逃がすというのが最優先の目的だ、と最後に付け加え、朱鷺は蓮也に伝えた。

「……分かりました。行こう」

 臥竜は隣に座る蓮也を見て、確かに言った。

 蓮也もそれに納得し、再び明花を背に背負う。そして、立花と共にエレベーターの方へと歩いた。

 へりに立ち、下を見る。

 少しの躊躇が生じるぐらいには高さのあるその空間を見て、蓮也は一度息を吐く。

 覚悟を決め、脚に力を入れた。

 その瞬間だった。

「あっぶなーい! ギリセーフ!」

 背後から声が響いた。はつらつとした、幼い少女のような声。

 その声に、全員が肩を震わせた。

「…………ぁ……」

 最初に振り返って声の主を視界に捉えたのは、立花だった。その瞬間に出たのは、力ない声。

 声の主も、立花を見て言った。

「久しぶり、立花」

 そう言ったその人は――〈六骸ろくがい來歌らいか〉。リベリアーズの幹部であると共に、立花の実の姉である少女。

 彼女の担当となっているのは立花で、來歌の殺害は、この作戦の目的でもあった。

『……立花は來歌との戦いに集中しろ。残りの3人はさっさと下に行け』

 明花を背負った蓮也と臥竜は、未だ身体を震わせる立花を背に、エレベーターへ飛び込んだ。

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