Part2
足音の主は、右手にナイフを携え駆けていた。その脚でコンクリートを踏みしめ、
それにいち早く反応したのは、煉馬だった。
腰からナイフを引き抜き、相手の刃先と衝突させる。
「相変わらず、脚の早え奴だこと」
煉馬はそう言って感心する余裕さえ見せつつ、一度こちらと距離をとった相手の方を見る。
煉馬は、否、この場の全員が、そいつを知っていた。
「
相手は、リベリアーズ〈幹部〉の人間だった。地上基地の破壊任務などの際NRFと遭遇したこともあり、既にその情報は記録されていたのだった。
「いつまでも……慢心してられると思うなよ」
風雅は冥色の双眸を煉馬に向け、電灯に艶やかな黒髪を反射させながら再び肉薄した。
「っと。おー怖い怖い」
しかし煉馬はそれに怖じけることもなく、先程と同じく落ち着いてナイフによる防御を行った。
「さ、御三方はお先へどーぞ。こいつは俺の担当だ」
煉馬はそう言うと、腕へ力を込めて風雅の体を扉の方へ押し返す。
残った3人は、その言葉に従って右の道へ進むのだった。
『煉馬、風雅の殺害は目的じゃない。ひとまず自分の命優先で動け』
「はいはい。分かってますよーっと……」
今回の作戦において朱鷺は、襲撃を察知された後、幹部も出てくるだろうということは予測していた。施設内に看守が配備されているとはいえ、恐らくそれも誘拐して手に入れた人員で、戦闘には慣れていない元一般人。それだけでNRFの隊員を抑えられるとは、リベリアーズとしても非現実的だと思っているだろうという考えがあったからだった。
そのため、幹部が出てきた際の対策も考えていた。
今現在確認されている幹部は4人。その一人一人に、担当する隊員を定めておいたのだ。
そして、風雅の担当は煉馬だった。
そんな2人は、今も尚刃をぶつけていた。コンクリートに嫌な金属音が反響し、両者の刃先が僅かずつ削れていく。
「ここじゃあ手狭だ。奥でやろう」
そんな中で、煉馬は不意にそんなことを言った。刃に力を込めて風雅の身体を弾いた後に、その横をするりと抜ける。向かっていたのは、風雅の後ろにあった、大きな鉄扉だった。
風雅が出てきた時から開け放たれたままのそれを、煉馬はくぐり抜けた。
その先にあったのは、だだっ広い空間。
NRFの訓練所をそのまま縮小したような場所だった。煉馬はその部屋の奥まで走っていくと、後ろを振り向き、鉄扉の前に立つ風雅と見合う形になった。
「いいねぇ……ここなら、好き勝手やれそうだッ!!」
煉馬は、風雅の元へと駆け寄った。
その戦闘から少し離れた、リベリアーズ本拠地食堂前にて。
『ここを左。その先に、左右3つずつの計6つの部屋が見えるはずだ』
蓮也、澪、立花の3人は、朱鷺の指示に従って走っていた。左右に別れるような道を、迷いなく左へ進む。
その先には、朱鷺の言った通り6つの扉があった。両側に3つずつの、規則的に配置された扉だった。
『右側の一番手前の扉だ。その中に臥竜がいる』
この作戦における、今後の展望はこうだ。
まず、リベリアーズの構成員の生活部屋から、別の箇所から遠隔で管理されている扉を爆破することで無理やり破壊し、臥竜を脱出させる。その後に明花がいる部屋でも同じことをし、明花と合流。
その後は臥竜、蓮也、明花の3人で一旦エレベーターへ戻り、エントランス付近で待機している玖の車両に明花だけを避難させる。
後に2人は再び地底下へ戻り、來歌の捜索及び殺害に協力する、と。
そして、その最中に遭遇した看守や幹部、その他構成員は、都度殺していくという計画だった。
「じゃあ、離れておいてください。周囲の警戒も忘れずに」
澪は再び腰から爆弾を取り出し、扉の前に立つ。
なにしろ二度目だったため、特に問題が起こることもなく、扉はあっけなく壊れた。
『まず他の構成員を殺せ』
朱鷺がそう言いきる前に、澪と蓮也が先導して部屋へ入り込んでいた。未だ消えぬ黒煙を抜け、胸元に光らせたフラッシュライトを頼りに、真っ暗だった部屋の中を見回す。
そこには2つの3段ベッドが確認でき、それぞれの上には、2人を呆然と眺める人間がいた。
「俺が左をやる」
蓮也はそれだけ言って、目の前の人間を殺そうと走り出した。狙いは、3段ベッドの一番下の人間。逃げ出そうと動き出していた所だった。
右手の刀をしかと握り、恐怖に満ちた顔に刃先を向ける。そのまま振り下ろし、その皮膚を確かに切り裂いた。
返り血がかかるのも
そんな一撃で、相手は絶命した。
10秒と経たず、蓮也は1人の人間を殺害した。
気づけば室内には、悲鳴が響き渡っていた。中段上段にいた者らが急いで下に飛び降り、自らの命を守ろうとする本能のままに部屋から出ようと試みる。
しかし、そんな彼らは、終ぞ扉を抜けることは出来なかった。
「逃亡は禁止ですよ?」
澪は、そう言って背中に刀を突き刺していた。
そのまま引き抜くと、名も知らぬ男の身体が床に倒れた。
周りを急速に見回し、他の脱走者にも同様に一撃を喰らわせていく。
また1人、また1人と、2人の刃に倒れていく。
2人が部屋に入ってから、1分と経たず。
既に、5人分の死体が転がっていた。
「……す、すごいね……皆」
その戦闘をベッドの中段で眺めそう言ったのは、臥竜だった。彼女自身も突撃のタイミングは朱鷺からの無線で知っていたものの、あそこまでの阿鼻叫喚が広がっていたとあり、声すら出せずに縮こまってしまっていたのだった。
「でも、安心したよ。これならこの先も大丈夫そうだね」
しかし表情は一転し、臥竜は微笑みと共に2人へ言った。
「さんきゅ……ああそうだ。これ、臥竜のやつ」
蓮也は臥竜に対し、腰に備えられたハンドガンを手渡した。この先は臥竜も作戦に同行することとなるため、朱鷺が予め蓮也に装備しておき、臥竜に渡すよう言っていたのだ。
『次は、左側の一番奥だ。その中に――明花がいる』
臥竜を加え4人になった一行は、急ぎ足でその部屋の扉へ向かった。
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