第八章 再会

Part1

 リベリアーズ奇襲作戦。地上奪還へ、リベリアーズ壊滅へ、大きな一歩となるその作戦は、今日が決行の日だった。

 作戦メンバーである蓮也は、扉の開いた地上エレベーターの中で準備を整えていた。しかしその手には、少しの震えがあった。

「緊張してんの? 大丈夫大丈夫。なんとかなるって」

 そんな蓮也に、声をかけた男が。長身でモデルのような体躯と、美麗に流れる金混じりの青髪。

 彼こそ、この作戦メンバーの1人、煉馬こと――天雨あもう煉馬れんまその人であった。

「だと……いいけどな」

 しかし彼の激励も虚しく、蓮也は未だ緊張の拭えない声で言った。

「……疑問なんだけどさ。なにをそんなに緊張することがある?」

「……途中、絶対に人を殺さなきゃいけない瞬間があるだろ。まともなテンションでやってられるかよ」

 蓮也は、今までに殺人を行ったことはある。その時の動きだけ見ればスムーズに、迷いなく行っているようには思える。しかしながら、彼の中の殺人に対する躊躇が完全に無くなっているかと言えば、全くそんなことはないのだった。

「あっそ。よく分からんなぁ」

 煉馬は気の抜けたような態度で言った。

「人を殺すのなんて、むしろワクワクすることじゃないか。普段じゃ絶対にできない、非日常だろ?」

 煉馬は、そんな言葉を口元に笑みを湛えて言った。

 殺人に対して恐怖を抱くどころか、楽しさを感じる。

 天雨煉馬というのは、イカれた人間だった。

「お前には分かんねえよ。俺の気持ちなんざ」

 蓮也は準備を終えたと同時、苛立った足取りでエントランスの方へと向かった。

「あちゃあ……怒らせちった」

 その背を見送っていた煉馬は、特に何も気にしていなさそうにそう呟きながら、自身も早く行かねばと、準備の最終調整を進める。

 彼は自身の手元に握られた、自身の武器を眺めた。

 しかしそれは、銃や刀ではなかった。

 6本の、単なるナイフである。一般的な隊員が『予想外に接近された際の緊急対応用』として腰に携帯するものを、彼は主戦力として扱っていた。

 そんな煉馬は装備も仕様が異なっており、腰のナイフケースは6本分用意されていたのだった。

「おっと、見蕩れてる場合じゃないや」

 その輝きをまじまじと眺めていた煉馬は、いそいそとエントランスの方へ歩いていくのだった。


 数分後、作戦メンバーである4人は、全員が装備を身にまとってエントランスに集まっていた。

「よし。じゃあこれから車に乗り込んで、リベリアーズの基地近くへと向かう」

 4人の前に立つ朱鷺は、この先のプランをそう説明する。

 その後、真剣な面持ちで4人を見た。

「……何度も言うが、この任務は、地上奪還に向けても非常に大きな一歩意味を持つものだ。 ……何としてでも、目的を果たすぞ」

 その一言で、人類の運命を分かつ作戦は始まった。




「ここか……」

 NRF本部から、車で1時間程。

 一行は、遂にリベリアーズの本拠地へとたどり着いた。

 見た目は一般的な建物と同じ、しかしその下にいるのがリベリアーズとあらば、足取りは自然と重くなっていた。

 4人は、入口扉の前に立った。

『じゃあ、合図で突入を開始する。いくぞ――』

 耳元の無線機に、意識が集中する。

『――突入、開始』

 人間を検知して開いた扉を、駆け抜けた。

 接近戦を得意とする刀を持つ蓮也と澪が先導して走り、まずはエントランスの機械を破壊する。構成員が攫ってきた人物を、気絶させるためのものだ。

 まるで本物の女性かのように形作られたそれは、2本の刃によってあっという間に破壊された。

 NRFが所有する刀は、金属でさえも切り裂ける鋭さを誇る。しかしその実力を発揮するためには、隊員自身の実力が必要不可欠なのだった。

『次はエレベーターに向かえ。まずは地底下1階で明花を探すぞ』

 4人は朱鷺の指示に従い、エントランスのカウンター横に備えられたエレベーターに乗り込む。

 そこで『U1』との表記があるボタンを押すと、エレベーターは4人を乗せて降下を始めた。


 1分と経たず、エレベーターは開いた。

 4人は、コンクリートに囲まれた閉塞的な空間に出た。どこをみようとも灰色で、天井に取り付けられた電灯も、この空間に温もりをもたらすにはあまりにか細い光だった。

 そして、4人がいたのは一本道だった。

 エレベーターから真っ直ぐ伸びるような道。その突き当たりには、扉があった。壁の灰色に見合わず真っ白な、でも相変わらず無機質な扉だった。

 澪が、先導してその扉へ近づいた。

「離れていてください」

 その他3人へとそう言い聞かせた彼女は、皆の装備に共通して存在する腰の袋から何かを取り出した。小さなビー玉のようなそれを床に落とすと、澪は急速に扉から離れた。

 瞬間、先程までいた地点で爆発が起こった。

 澪が落としたのは、扉を破壊するために渡されていた、小型の爆弾だった。

『そこを右に曲がった先に、食堂がある。そこから左に道なりに進んで行けば、臥竜のいる部屋があるはずだ』

 目の前の障壁を破った4人は、耳元の声に従って破壊された扉を抜けた。

 その先は正面に進む道と右に曲がる道があり、正面の方には、大きな鉄扉が確認できた。

 しかし4人は朱鷺の指示に従い、それを無視して右へ走った。

 その瞬間、鉄扉が開き、迫る足音が響いた。

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