Part4
特訓は、深夜にまで及んだ。現在時刻は、設置された時計を見るに午前1時。
俺は全身に汗をかき、澪も膝に手をついて呼吸が荒くなっていた。
「クッソ…………もう1回ッ!!」
それでも、俺は言った。
まだやれる、こんな所で止まってる場合じゃない、って。
「……いいですよ。何度でも……私はやってやります」
澪の発言を受け、俺は再び立ち上がって防御の準備をする。
既に何十回と繰り返した動きだった。
それでも、俺は未だ防御すら出来ずにいた。
それが、悔しかった。
ようやく訪れた、明花を救うためのチャンスなのに。俺がどれだけ手を伸ばそうと、届く展望が見えなくて。
(覚悟を……決めたつもりだったのにな)
実はこの特訓の前、朱鷺からこれまでの訓練の態度に対して、指摘を受けていた。
『このままのやり方と覚悟じゃあ、きっと明花は救えない』
そこで、俺の覚悟は強固になった。だから、1日目2日目と全身全霊で望んできた。
でも――
(きっと……もっと前から変わらなきゃ、ダメだったんだ)
脳内でそう後悔した。
NRFに入れたことで。NRFがリベリアーズ壊滅へ動き出していることを聞いて。
俺はあぐらをかいていた。
後は勝手に上手くいくと、思い込んでいた。
でも今こうして、機会を手放すかもしれない窮地に追い込まれている。この特訓期間で刀の技術を極めなければ、俺はきっとメンバーから外される。不安定な実力のままに送り出すなんて選択、朱鷺は絶対にしない。
だったら――
(今やれることを、やらなきゃ)
この任務を、他人に任せたくない。俺が、俺の手で救うんだ。
覚悟は再び、燃え上がった。
目の前に立つ澪を見据え、攻撃に備える。
これまでのパターンを、今一度思い起こした。
さあ――どれで来る。
澪は、動き出した。
右手に握られた刀の持ち手に、左手が添えられた。
両手で握る形。
その手で、1歩、また1歩と距離を詰める。
刀は、頭の上に振り上げられた。
かなりの速度、それでも、俺の視界ははっきりとその動きを捉えていた。
真っ直ぐに、刀が降下を始める。
だったら、『流す』!
「……!」
澪の身体のバランスは、崩れた。手前に倒れ、よろめいた。
ようやく防げた。後は――ぶつければ!!
「あと……もう少しですよ」
全力で放った一撃は、澪の刀に受け止められた。
そのまま弾かれ今度は俺がよろめき、再び防御する側に戻る。
でも、ここで終わりたくなかった。
その覚悟は、確かに俺の限界を引き上げた。
今までに経験の無いパターンでの対面だったが、冷静にその動きを分析できていた。
刀は変わらず右手に握られ、そこから振り上げるような傾きがあった。狙いは、左脇腹。
だったら、こうすれば!
俺は右手の刀を逆向きに変え、下から迫る刀に刃先を衝突させた。
そのまま上方向に弧を描くように振り上げ、刀ごと澪の身体を仰け反らせる。澪の顔には、驚きがあった。
そこに、迷いなく右手を振り下ろした。
特訓所の中に、激しい音が響いた。
「…………っ……ふふ。……合格です」
澪は肩を抑え、その場に膝をついた。
特訓3日目。
2人は4時間ほどの睡眠時間でその日を迎えていたものの、任務が明日に迫ったアドレナリンもあったのか、眠気は全く感じさせない動きで特訓の第二段階――銃相手に刀で戦う練習に臨んでいた。
しかし、蓮也は凪の予想通り、すぐにその特訓を完了させた。ホログラムを相手取っての特訓が始まって2時間程で、弾丸の動きを見切って回避し、敵に肉薄した後に斬撃を行えるレベルにまでなっていた。
それは、1、2日目で磨かれた反射神経があってのものだった。
その日の特訓は、普段より早い13時に終了を迎えた。
「いよいよ、明日の0時に作戦開始だ」
朱鷺がそう言ったように、この作戦は明日の訪れと共に始まる。それに合わせて早めの睡眠をとれるよう、特訓をこの時間に終わらせたのだった。
「実力としては、全員完璧なレベルになっている。だから明日は――頼んだぞ」
朱鷺は、鼓舞する意図でその言葉を放った。
それに、各々が返事を返す。
「じゃあ、これから昼食をとって寝てもらって……23時にはエントランスに集まっているように。そこから車で出発する。以上、解散」
5人は、明日への不安と緊張のままに部屋を出た。
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