Part5
ぐっすり、なんて言葉はここにいる限り使う機会は無いなというのが、ここでまともに寝た感想だった。
(早かったかな……でも二度寝なんか出来ないよ……)
普段から玖に叱られていたように、臥竜は普通寝覚めの悪い人間だ。ただあまりに環境が悪すぎて、他の5人が起きるよりも早く目が覚めてしまった。当然二度寝なんてものをする気にはなれず、とりあえずベッドの上で身体を伸ばしたり捻ったり。聞いたこともないぐらい関節が鳴った。
質以前に広さもバカみたいに狭いので、寝返りなんてうてなかったのである。
そんな現状を嘆いていると、突然大音量で謎の音が響いた。アラーム……というよりアラートと言った方が適切と思えるぐらいやかましかったそれは、天井のスピーカーから鳴っていた。
それを聞くやいなや、5人は何かに突き動かされたようにベッドを降りて部屋を出た。
突然のことに困惑しながらも、多分あれがここなりの目覚ましなんだろうかと思い、遅れないように臥竜も部屋を出る。
その先は、部屋よりかは開放感を感じる空間だった。廊下であろうその空間では、他の部屋から出てきた人々が忙しなく歩いていた。何部屋あるのだろうかと疑問を抱いた臥竜は、ふと周りを見回してみる。すると、扉の数は自分のものを合わせて計6つ。6部屋あった。
「おい!早く歩け!」
呑気に臥竜が部屋数数えをしていると、皆が歩いていった先からそんな怒号が飛んできた。見ると、その人は全身黒ずくめの看守みたいな人間だった。腰には銃を携帯し、多分刃向かったら殺されそうだったので臥竜は急ぎ足で皆についていった。
(あれも……誘拐された人達なのかな)
臥竜はそんなことを考えつつ、皆に合わせて廊下を歩く。
尚、なぜ皆が歩いているのかは相変わらず分からないままだった。
看守は直角カーブの所に立っており、臥竜は看守の前で左折する。その道を進んだ左側に、何やら皆が入り行く部屋が見えた。扉は両側にスライドするスタイルになっており、その上には『食堂』という文字の刻まれたプレートがあった。まずは食事の時間かと納得し、臥竜はその中に入る。
部屋と比べかなりデカイその部屋の中は、まんま食堂だった。壁に沿うように列が形成され、先頭の人からカウンターで料理を受け取っていた。いつだったか刑務所のドキュメンタリーにハマっていた時、見ていたのと同じ感じだった。
ただ、一個違和感を感じる所があった。
料理を受け取るカウンターの向こうにいる人。その人達が、調理している気配がないのだ。ただ置かれた料理をカウンター上に並べているだけで、調理師ではなく、配膳スタッフみたいになっていた。
そんな違和感を抱きつつも、臥竜も列に並んで料理を受け取る。
その後、大量に設置されたベンチのような椅子と机の中から適当なのを選び、座って食事を行う。その内容は、意外と健康的なものだった。米と、味噌汁と、唐揚げ。あとなんか野菜の小鉢×2。一汁三菜丁寧に揃ったそれを、臥竜はなる早で食べ終える。1つ、確認したいことがあったからだ。
臥竜は食堂内を見回してみる。
そこには、明らかに36人以上の人間がいた。感覚としてはその2倍……それぐらいの感じがあった。臥竜的には、この感覚に間違いはないだろうと確信していた。
あの時、廊下へ出て左に曲がった時。
視界の奥に、更に左へ曲がれそうな道があったのだ。そして、そこからも人は食堂へ歩いてきていた。
文面で例えるのが難しいが、上から見たら『コ』の字になっているということだ。コの開いている部分に食堂があり、伸びている部分それぞれに6個ずつ部屋があるということ。
あくまで臥竜の想像に過ぎないが、きっとそうなっているのだろうと思った。
しかし、臥竜が部屋を見回した本当の理由はそこでは無かった。
(っと……あ、いた!)
臥竜は少し離れた位置にいる少女の姿を見て、声をかけようと接近を試みる。
「終わったやつは早く移動しろ! ダラダラする時間は無いぞ!」
そんな時、またしても看守が圧力をかけるように声を上げた。多分曲がり角にいたやつとは別人ではあると思うが、見た目で言えばまるっきり同じであった。
そんな奴に今歯向かうのは危険と判断した臥竜は、その指示に大人しく従って食器を戻し、食堂の入口へ向かうのだった。
ただ相変わらず何をするのかは分からないため、周りを見てみる。すると、皆食堂入口正面にある通路へ向かっていた。臥竜はそれに伴って移動していくと、T字路にぶつかった。左には扉があったが、皆右の単なる通路に行っていたので、やはり臥竜もそれについていく。
道中、何人かの看守が立っていた。
部屋の狭さで感じるのとは別な圧迫感を感じつつ臥竜は歩き続け、とある部屋にたどり着いた。またしても部屋の最大サイズを更新したそこは、何も無いただのだだっ広い部屋だった。まるでNRFの訓練所を彷彿とさせるそこでは、他の皆が綺麗に整列をしていた。
どういうルールで並ぶべきか相変わらず不明だったため、適当に目に入った温厚そうな人にコソッと声をかけてみる。
(あの、私昨日ここ来たばっかなんですけど、これってどう並ぶんです?)
(えっ? あぁっと……部屋のメンバーが横一列になるんです。Aがあっち、Bがこっちです)
後半のA、Bというのはおそらく、合計12個の部屋を2グループに分けたものなのだろう。臥竜は自身の部屋がどちらに属しているかは分からなかったものの、同じ部屋の人がいたのでAの方に加わる。
その後数分も経たぬうちに、全員が揃った。お咎めのないあたり、これで合ってたらしい。臥竜は周りをキョロキョロと見回して、どんな人がいるのかと確認する素振りを見せていた。
そんな中で、先程皆が入ってきた扉が閉められた。あれは両側に開くタイプのもので、鉄扉のような重厚感のあるものだった。
「点呼!」
列の正面に立つ看守の一言で、点呼が始まった。右端の人間から順に、1、2、3、4、5、6と。フィーリングでなんとかなった。
「今日はAが1の作業室、Bが2の作業室だ。んで、7から12の6人は、今日入れ替えを行う。すぐに部屋を出て移動しろ。以上」
臥竜には、何を言ってるのか皆目見当もつかなかった。作業室? 入れ替え? 数々の『?』を浮かべつつも、7から12というのは、おそらく囚人番号みたいなものだろうと仮説を立てていた。その詳しいシステムはよく分からなかったが、多分部屋ごとに1~6、7~12、13~18みたいになってるんだろうと思っていた。
その上で左右の人が部屋を出ようとしているということはなかったため、このことを考えるのはやめた。
して、Aは1の作業室だと言われたので、それらしき部屋を探す。
部屋の左右に、1個ずつ扉があった。
上にはそれぞれ、『作業室1』『作業室2』の表記があったため、臥竜は指示通り1の方へ向かうのだった。
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