Part4

 そんな事情を経て、今に至る。双葉愛美こと巡臥竜は、見慣れぬ空間――リベリアーズの拠点で目を覚ました。

 自らに目を落とせば、先程まで着用していたパーカーとジーパンは無く、代わりに、なんか小汚い白ティーとカーキ色のズボンを着せられていた。

 気絶していて顔を見ていないとはいえ、知らん人間に服を脱がされたという事実は恥ずかしかった。ただ、ウィッグがバレなかったことには安心感を覚えつつ、一度下半身をまさぐる。こっちもちゃんとあった。

 そして、自身の周囲を確認してみる。どうやら自分はベッドの上に寝かされていて、それは上下に同じものを重ねた3段ベッドの中段らしかった。

 尚、感触は最低で、生活事務の部屋のベッドと比べればゴミと言えた。コンクリートのように硬いマットレス、所々錆びてカビも確認できる支柱、ボロ雑巾のような質感の掛け布団。加えて枕すらも無く、本当にコンクリートの上に転がされるのと変わりない環境だった。

 そんな現状に不満を覚えつつも、今度はもっと外側を眺めてみる。

 すると、このベッドが位置する部屋は案外狭いのだと気づいた。ワンルームのマンションの一室をちょっとだけ拡大したみたいな、そんな規模感の部屋。ただ壁も床も天井も全部コンクリートなため、閉塞感から実際よりも小さく感じてしまう。その部屋の中に、3段ベッドは2つ置かれていた。

 つまりこの部屋――リベリアーズの構成員の生活部屋は6人部屋で、リベリアーズの組織規模を考えるに、こんな感じの部屋が何個も並んでいるのだろうなと、臥竜は思った。

「やだなぁ……」

 こんな部屋で過ごしたくない。当然の不満を、誰もいないのをいいことに呟いた。そう、この部屋には誰もいなかった。6つのマットレスの内、5つは空いていたのだ。

 それに疑問を浮かべつつ、臥竜は一旦ベッドを降りてみる。

(こういうのって、何か説明するもんじゃないの……?誰もいないし……)

 ひとまずリベリアーズの幹部でもなんでも、何をしたらいいかを聞きたかった。

 そんな時、部屋の壁にあった扉がスライドした。NRFの生活部屋のと同じように、電動のスライド式の扉だった。コンクリートの灰色に見合わない白色が目立つその扉の向こうから、何人かの人が部屋に入ってきた。その群れの人数は、5人。状況を鑑みるに、同部屋の人達だった。

「……あ、そうか。新しい人ね……よろしく」

 そんな中の先頭に立ってこの部屋に入ってきた人が、臥竜に対しそんな挨拶をした。

 自信が無いのか疲弊しているのか分からないが、元気の無さそうなのは確かな、そんな女性だった。服装は臥竜と変わりなく、髪はこの灰色の空間じゃ同化してしまいそうな灰色だった。寝癖のまま放置されているようで、適当に重力に従って垂れ下がっていた。

「私がこの部屋のリーダーで……あ、リーダーってのは……」

 女性は相変わらず低めのテンションで、説明を始めた。ただ順序がぐちゃぐちゃかつボソボソ喋ってて何度か臥竜が聞き返すぐらいだったので、まとめて説明する。

 まず、この女性の名は〈尾道舞花おのみちまいか〉と言い、各部屋ごとに1人存在する、リーダーという役割の人とのこと。リーダーは様々特別な仕事があり、基本的にはまとめ役という認識でいいらしい。

 そして、今こうして臥竜のような新人にリベリアーズの生活について説明するのも仕事だと言っていた。

 なので、リベリアーズの生活について……話してもらえると思ったのだが。

「あぁっと……まあ、ずっといれば分かるよ……それじゃ」

「え、あっ、ちょっと!!」

 すぐにでも寝てしまいたかったのか、舞花は話を中断するとベッドに向かい、そのまま爆速で寝てしまった。

「えぇ…………」

 臥竜は困惑する。それと同時に、不安になる。ここにずっといると、あんな風に疲弊しきった人間になってしまうのかと。

 しかし、舞花がだめなら他に説明してくれる人はいないかと、臥竜は他の4人をそれぞれ見てみる。ただ、全員舞花と同じ感じだった。何も話さぬ間にベッドに飛びつき、もう本日は営業終了ですとでも言うかのようにいびきをかいていた。

 結局何も聞けぬままに、臥竜はその日を終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る