Part2
あれから数分、2人が歩いた末にたどり着いたのは、この世界では一般的な形式のビルだった。地下に入口を設け、地底下にその足をぐんぐんと伸ばした建物。その付近には人気が無く、どこか閉塞的な雰囲気を感じさせる場所だった。
そんな建物の入口の前で、男は少女に言った。
「俺たちの拠点はこの中だ。ただ、入る前に渡して欲しいものがある」
男の発言に少々驚いていた少女だったが、こういうアングラな世界の組織に所属する前に渡すものといったら、ある程度見当はついていたらしかった。
「身分証明書とかでしょ? ほら、高校の学生証。これでいい?」
少女はそう言って、パーカーのポケットの中から学生証を取り出し、男に手渡した。個人情報を易易と開示するあたり、やはり自身の人生はどうでもよく感じているようだった。
「随分と話が早いな……まぁいい。
逆に困惑を誘われた男は、しかしそれでも気持ちを持ち直し、内容を精査する。〈
配られたその日に教師から念押しをされるぐらい人に見せてはならないものだったが、少女――愛美は、当然のようにそれらが真であることを認めた。
加えて男もスマホで高校の情報を調べ、ダブルチェックを欠かさない。すると見事に同じ高校名がヒットし所在地にも間違いがない事が判明したため、男は愛美の発言を信じた。
「じゃあ、これは預かっとく。万が一逃げでもしたら、家が燃えるぐらいは覚悟しとけよ?」
男は愛美へ圧をかける意図で、少しばかり声のトーンを下げて言った。しかしそれが愛美に響いた様子は無く、愛美は友達と話しているように気の抜けた声で答えた。
「別にいいよ……てか逃げても行く先無いし? むしろ親が死ぬなら清々する」
愛美はまたしても適当に返事をし、男の後ろについて建物の中へ入った。その中は実に……シンプルな作りだった。床や壁、天井にいたるまでの全てが白のタイル張りとなっており、その中にポツンとカウンターが置かれていた。
そこの中に立っていたのは、受付か何かであろう女性。しかしその女性は2人を見ることは無く、虚ろにどこかの一点を見つめるのみだった。
「で、ここで何やんの? あっちのエレベーターでも――」
愛美は、カウンターの右後ろにあったエレベーターへ向かおうとした。
瞬間、受付の女性が愛美の首に弾丸を撃ち込んだ。
その動きは機械的な効率化されたもので、事実、その女性と思しき存在は機械であった。
撃たれた愛美はというと、首からの大量出血を起こしているかと言えばそうではなく、床のタイルは変わらず白いままだった。
しかし、彼女は確かに倒れてはいた。その首元を見れば、弾丸は貫通というより、刺さっていた。
それは、先端が針のように鋭く形成され、後部にはスタビライザーの役割を果たす赤い羽根のついた弾丸。
そこから察するに、それは麻酔弾だった。主に動物園などで用いられ、基本的に人間に投与されれば死亡のリスクも高いもの。だがそれは多少改造が施されているのか、彼女は未だ呼吸をしており、その心臓も確かに拍動を繰り返していた。
つまり、彼女は気絶していた。
「……しっかし、こいつを本当に入れていいもんかね。やっぱり【
男はそんなことを言いつつ、愛美の身体を持ち上げる。少なくとも50kgはあるであろうその身体を易々と持ち上げた男は、そのままの足でエレベーターへ乗り込んだ。
エレベーターはその後降下を初め、地底下の部屋へと2人を誘う。この世界の下に根を張る、『リベリアーズ』の拠点へと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます