Part5

「リベリアーズは、NRF……いや、人類にとっての明確な敵なんです。そんな組織に加担した人間は、姉であれど殺さなければなりません。しかもそれが幹部となれば尚更です」

 澪は、確かな覚悟と共にそう言った。

「私も、そうは思うけどさ……立花としてはどう思うの?」

「私は……やっぱり信じたくない。お姉ちゃんがあんなことをするだなんて……信じたくないよ……」

 立花の頬には、涙が伝った。笑顔を見せる姉が大好きで、現実を受け入れられなかったからこそのものだった。

「あなたは、NRFの隊員なんです。人類を救い、地上へ導くのが使命。入隊した以上、それは絶対に果たさなければいけません。それに……あなたは自分で願ってここに来たのでしょう?」

 澪は、少しの怒り混じりにその言葉を放った。

「っ……でも、あの時はこんなことになるなんて知らなかった……私は、お姉ちゃんを殺すためにここに来たんじゃないの!!」

 立花は、姉がリベリアーズの人間だと言うことを今年NRFに来てから知った。ただ、基本的にリベリアーズに関する情報は混乱を防ぐ目的で機密として扱われるため、当然のことではあった。

「……なら構いません。私の方から楓真ふうまにでも打診しておきますから。でも……これだけは言っておきます。ここであなたが來歌を殺さなければ、一生の後悔が残りますよ」

 楓真――澪や莉夢と同じくステン・フルーガの隊員の名前であった。

「ま、まぁ、まだ1ヶ月あるんでしょ?澪は落ち着いて。立花も、もう少し1人で考えてみたら?」

 半ば対立のような状態に発展してしまった現状を見かねて、莉夢が一度ストップをかける。そのまま何か歯切れの悪い空気感を抱えつつ、話し合いは終了し各自部屋へ戻ることとなった。



「一生の……後悔……」

 立花は、自室でその言葉をずっと反芻していた。澪が最後に放った言葉。その意味を、ずっとずっと考えていた。

 私がお姉ちゃんを殺したら、お姉ちゃんは悲しむかな。

 人を殺し、人類の希望の芽を摘もうと画策する奴に対し、『殺したら悲しむかな』なんて。こんな思考がぼんやりと浮かんでしまうぐらいには、立花も異常者ではあった。立花自身も、それを遅れて理解した。

 しかし、立花は姉を愛している。

 これだけは動かない事実であった。

 ただ、澪の発言には少々納得する自分もいたのも事実ではあった。NRF隊員としての責務。これは、ここにいる限り果たさなければならない。それに、この課題から逃げてしまっては、『強くなりたい』と願った自分に嘘をついてしまうことになる。だったら、やらなきゃ。もう逃げないって決めたんだ。

 心の中でそう決意を固めた立花であったが、やはりどこかで姉への執着は抜ききれず、混濁とした感情で日々を過ごすのだった。



「で、気持ちはどうなった?」

 1ヶ月後、立花は再び司令官室に立っていた。あれから何度か3人での会話を重ね、しかし中々整理はつけられず、この日を迎えた。だからこそ、今もまさに葛藤の最中だった。

「……やります。私が、來歌を殺します」

 正直、少し投げやりな所はあった。こんなぐちゃぐちゃな葛藤を抱えたまま生きていくのが苦しかったからこそ、ひとまず参加することを決定した。その選択をとれば、あとはやるしかなくなる。多少は気が楽になるだろうと思った。

 だからこそ、この言葉を投げた時の表情は、演技によるものだった。

「……分かった。じゃあ詳細は後で皆と合わせて伝えるよ。ありがとね」

 朱鷺は、立花の言葉を受け入れた。

「……失礼します」

 立花は未だ森羅万象渦巻く心情を抱えたまま、司令官室を後にするのだった。

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