Part4
――それからしばらく経って、お姉ちゃんが少年院に送られたということを新聞を通して知った。当然私には事情聴取が行われ、その時、改めて警察から言われた。
あなたの姉は殺人を犯した。犯罪者なんだ。
って。それを認めるのは、やっぱり嫌だった。でも、そんな私に手を差しのべてくれた人が居た。
〈
澪はNRFへの入隊を夢にしていて、元NRF隊員らしい祖父から剣術を主軸に学んでいるとのことだった。その内、私もそれを目指してみたいと思うようになった。当然その理由はなんとなくという事ではなく、心の強さを手に入れたいというのがあった。
もう両親の支配からは解放されたんだ。もう、お姉ちゃんにあんなことはさせない。自分の足で立てるようになったんだ。自信を持って、出所したお姉ちゃんにそう言えるような人になりたかった。
ただ、最初は止められた。
『そう甘い世界でもありません。いつ死ぬかも分からないんですから、それこそ、お姉さんと一生会えなくなるかもしれないんですよ?』
澪から言われた言葉。確かに、その通りだった。でも、そんなのは関係無かった。
『それでもいい。こんな状態でお姉ちゃんと会ったって意味無い……強くなって、私がお姉ちゃんを守れるようになりたいの!!』
当時の私は、意地をはった子供みたいな、頑固な野郎だった。何度止められたって折れることはなく、呼ばれてもないのに稽古に混ざろうとしていた。いずれそんな私を認めてくれたのか、稽古に混ざっても澪は何も言わなくなった。
この時は、情熱に満ち溢れていた。ようやく、人生における希望が見えてきた気がしていた。
でも、今となってはそれも打ち砕かれてしまった。
立花は、部屋に向かう途中の廊下で座り込んでいた。壁に背を預け、力無く俯いていた。
「ありゃ、立花?どうしたこんな所で……」
そんな彼女に声をかけたのは、〈
立花は莉夢に、自身の胸の内と告げられた事実を話した。
「なるほど。それは難しい話題だ……」
莉夢は、一度天を仰ぎ見て思考した。しかしすぐに、対応策を提示した。
「じゃあ、澪にも相談してみる?一旦この3人で話し合お」
「うん……ありがと」
莉夢はそう言って、立花に手を差し出した。立花もそれを受け取り、なんとか気持ちを持ち直して立ち上がる。そんな2人は、ある部屋に向かった。
2人が先程まで会話していた、NRF生活棟3階。そこは、ステン・フルーガとファルクの生活部屋が存在する階だ。しかしこの2つのクラスの生活部屋は特殊で、全員が同じ部屋で生活するのではなく、それぞれに個人部屋が与えられていた。
そして、その数は4つ。いきなり増設というのも難しいためそれにより、ステン・フルーガとファルクには最大人数の制限があった。ただこれには、少数に絞ることでの連携力や絆を維持するという目的もあるのだった。
そして、2人は十数歩歩いた後に目的の部屋に到達した。
『新名』
部屋の扉にはその文字があった。
「澪ー? いるー?」
莉夢はその扉を叩きながら、中にいるであろう人間に向かって声をかけた。数秒後、扉の後ろから高身長の人間が歩み出た。
「莉夢、どうしたんです? こんな時間に、立花まで引き連れて……」
同期である莉夢に対しても敬語で接する彼女こそ、新名澪。幼い頃からNRFへの憧れを抱き、立花と共に厳しい鍛錬を行っていた人。
そんな彼女は立花と対照的に、NRFで最も身長の高い人であった。
193cm、会った者全てを圧倒するその体格は、彼女自身少しコンプレックスに思う所もあるのだった。
「えっと……実はカクカクシカジカでして――」
後頭部から纏めた黒髪を垂らす澪に、莉夢はさっきあったことを報告する。すると、澪の表情は少しばかり陰りを見せた。
「……分かりました。一度中で話しましょう」
澪はそう言うと、2人を部屋の中へ誘って扉を閉じるのだった。
部屋の中は、整然としていた。ワンルームのマンションぐらいの広さのその中には、ベッド、机、椅子、クローゼット。このぐらいの家具のみが存在し、それによってかなりスペースが残っているような感じがあった。
立花はベッドに、澪は椅子に、莉夢は床に座り、3人はお互いと見合うような形で話し合いに移った。
「まず、私の意見としては……朱鷺さんに従うべきだと思います。確かに、あなたが姉に向ける感情も理解できます。しかし、事実として。あなたの姉は立派な殺人鬼。罪人なんです」
リベリアーズには、4人の〈幹部〉という人間がいることが分かっている。リベリアーズの運営などを行っていると推測されている彼らは、1対1ではNRFの隊員とも渡り合えるほどの戦闘力を持っていた。それらは地上でNRFと接触することもあり、その際の情報から、内3人の素性は割れていた。
その内の1人、〈
その人は、正真正銘立花の姉だった。
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