Part5
そして、同刻。先程の地点からやや離れた地点にて。
「昴、配置に付いた。凛は大丈夫?」
ニーロから離れた位置で、昴は無線機にそう問いかける。この地点のニーロは、渚冬、昴、凛がスナイパーライフルで、立花が中距離からミニガンで主要火力として攻撃を行うという算段だった。
スナイパーの3人はそれぞれバラけた位置の岩陰から狙いをつけ、渚冬はそのまま岩柱の上からその脳天を貫かんと圧をかけ、胴部や脚部が昴及び凛の担当。そんな中で、3人は配置に付いた。
『凛と昴は鎌を落とすのを目標に狙って。僕はダメージを与えるのに専念する。立花は無理に近づき過ぎなくていい。僕ら3人の中央に留めるのを意識して』
渚冬は視界の全てを暗黒に染めながらも、的確に指示を飛ばしていた。それは、彼のずば抜けた頭脳と、上空から眺める朱鷺とその他仲間の状況報告があってこそだった。
「速い子だなぁ……あんま動くな……よっ!」
渚冬の対角線をやや逸れた線上に存在する岩陰から、凛は狙いをつけて弾丸を放った。他の銃器と一線を画す
鎌の根元を食い破った。
鎌が1つ砂上に落ちると、反対側でもまた1本、また1本と外れ始めた。
「もうただの虫さんだね。可哀想」
どこか子供特有の無知故の残酷さを感じさせるセリフを言ったのは、立花だった。身長132cmというNRF随一の小柄な体躯であろうと、それを感じさせないようなパフォーマンスを発揮する立花。
そのミニガンの反動はかなりのものであるものの、立花はそれを完全に抑えきっていた。
鎌を5本も失ってダメージがかさみ、動きの鈍ったニーロの身体に容赦なく弾幕を浴びせていく。
激しい銃声が8秒程続いた後に、ニーロはもう原型を留めていなかった。先程と同じようにそこには黒い池が完成し、昴が既に破壊に動き出していた。
「いやはや、2クラス揃うと流石に早いね。助かったよ。2人とも」
『そりゃどうも……でも、その前に、おたくの立花ちゃん守らなくて大丈夫かい?』
「あー……まあ変なことしてないらしいし、いいんじゃない?」
無線機越しに軽くそう協議した2人が思い浮かべていたのは、あの人だった。
「うにゃー可愛いねぇ……立花ちゃーん……!!よーしよしよし〜……」
「………………」
まるで家に迎えられたばっかりの子犬のような抱き方と撫でられ方をしている立花。彼女は、怜符の腕の中に居た。
「はぁ……横で戦いたかったのにな……残してくれてたって良かったんだよ?」
「………………」
中々キショめな言葉を投げられていた立花だったが、怜符が入隊してからずっとこうなのでもう慣れたものだ。それにしたって、ここまでずっと抱きついているのは気持ち悪いが。
一方その頃、後方の戦場では。
『久しぶりじゃんか旭……元気してた?』
〔同窓会じゃないんだよ 黙って撃て〕
こっちでもクローカの個性がバチバチだった。酒臭い体臭と共に旭に話しかける時雨。緋里と同じく旭も時雨の同期であり、時雨だって緋里の、旭の苦しみを知っていた。
しかし生活を共にしたのは研修期間だけで、時雨はそれ以降、2人とは違う環境で研鑽を積んできた。その経験は、確かに時雨の力になっていた。
時雨は常に鎌で狙われてはいるのだが、独特なステップでのらりくらりと躱していた。そんな中でもしっかりとアサルトライフルで狙いすまして弾丸を撃ち込んでいた。
『んでさ、こないだ怜符が……』
〔黙れってんだろ 先にお前撃ち殺すぞ〕
この2人組は、会話だけでは一見相性が悪そうに見えるが、実はバッチリだったりするのである。
旭が担ぐのは、ショットガン。時雨はアサルトライフル。それぞれ近距離と中距離をレンジとする武器であり、そもそもの相性の良さもあった。しかしそれ以上に互いが互いの動きを予測できているというのが大きく、一切無駄のない戦闘が出来ていた。
時雨がニーロの動きを制限し、そうして羽を広げられるようになった旭がショットガンで暴れ回る。クラスは違えど、連携力は凄まじいものだった。
旭1人では抑えるだけしか出来なかったⅡ型のニーロも、今となっては完全な瀕死状態に成り果てていた。
『流石だ。俺は酒で訛ってしょうがなくってね……』
〔早くその手を黙らせろ 余計なこと考えさせんな〕
実の所、これまでの会話は全て喉を用いず行われていた。時雨は片手でアサルトライフルを制御し、もう片方の手を巧みに操って旭に示していたのだった。
このような片手で行う手話はNRFの中で開発されたもので、聴力を失ってコミュニケーションの難しい旭のためであった。日常生活では読唇術でなんとかなりはするが、戦場となるとわざわざ口元を見る余裕はない。そのような事情があり、少し大きめの動きの手話が開発されたという訳だ。
いつファルクと任務があるか分からないからこそ、新人は皆、最初の任務は手話の習得なのだった。
2人がわちゃわちゃと言い合いをしている内、気づけばニーロはいなくなっていた。黒い水溜まりが広がり、そのコアが月光を反射するばかりだった。
『おつかれさん。みんな戻っておいで』
朱鷺が全体にそう呼びかけ、8人はそれぞれの車両に戻る。すっかり夜を迎えた世界の中に、2つのエンジン音が共鳴した。
「やっぱり中途半端にやると駄目か……」
遠方の岩柱に、背から触手を生やした人間が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます