Part4
「お久しぶりですっ!先輩!」
怜符はサブマシンガンを握っていた。小型で飛び出たマガジンのそれは、唯織のものと似たやつだった。
怜符は紅葉に元気よく挨拶しつつもその目は確かにニーロを捉えており、確実に脳天に20発撃ち込んだ。
そのまま地上へと着地すると、一度紅葉と怜符は目線を合わせた。
「共闘はいつぶりかな……最近はどっちも忙しかったからね」
予想外の奇襲に怯むニーロを前にしながらも、慣れた調子で2人は軽い世間話を楽しんでいた。
「まあ、何にせよテンション上がるなぁ……!こんな危険を冒すのはァッ!!」
怜符は、周囲の状況を認識することもなく駆け出した。足元に砂埃を巻き起こしつつ風を肩で受けて走る。その目的地は、ニーロの胸元。
食事を妨害する邪魔者に激昂したニーロだったが、すぐに餌が増えただけだと理解し、その鎌を存分に振るった。鋼の剣を振り回しでもしてるように、金属の風切り音のような音が怜符の鼓膜を揺らす。しかしその切っ先が装備を切り裂くことは無く、常に間一髪の所で虚空を切ることしか出来ていなかった。
怜符は、それを意図的に行っていた。
わざと攻撃の当たりやすい箇所に突っ込み、ギリギリでかわし、スリルを楽しむ。しかし本人にとってはそれが一番の快楽なのだ。それを示すように、彼女の口角は上がりっぱなしだった。
「こんなに近づいてやってんのに、傷1つつけらんねぇとはなァ!? ほら、右か? 左か? ……アッハハハハハ!!」
「避けてばっかじゃなくて、ちゃんと攻撃する!! 意味ないし危ないでしょ!!」
こんな風に説教が飛んでくるのも、クローカが他クラスと共闘する際はあるあるだった。ちなみにクローカ単体の時は誰も怒らない。それが無駄だと知っているから。
しかしながら、怜符だってただ遊んでいるということは無い。この行動は、彼女なりのヘイト買いだった。
つまり、メリットは多少あるわけだ。この最中はニーロの意識が怜符に集中し、他の隊員がフリーで火力を集中させられる。
しかしリスクが余りに大きいし、何より結局怜符が攻撃できていないため、火力自体は2人の人間が回避しながら攻撃するのと大して変わっていないことから、異常者の怜符しか使わない戦法でもあった。
ある程度紅葉からのダメージも刻まれ、ニーロの動きから俊敏性が失われつつあった頃、怜符は行動パターンを切り替えた。
一度少しだけ離れると、腰の装備袋に手を伸ばした。そこから取り出したのは、ひとつの長方形だった。先日のリーテン・フォーゲルがリベリアーズ拠点破壊任務で使用したのと同じ、爆薬だ。
おおよそ通常の戦闘では用いないそれを、怜符は常に携帯していた。
目的は無論、攻撃用。
病的な白さと、それこそ烏のような細さの脚を全力で砂上に叩きつけ、出せる速度の限界を目指してニーロに飛び込んだ。両肩を掠める鎌を無視して、怜符はニーロの胴元だけを見ていた。
そこに左手を突っ込むと同時、丁度右下から振り上げるような軌道で迫り来る鎌を足場とし、再び翼を見せびらかすように空を舞った。
そこからやや高度を下げ、西方の夕陽と逆向きの怜符が、ニーロから見て丁度重なったタイミング。
爆薬は、6本の鎌を全て吹き飛ばした。
「よっしゃ!!完璧〜……!」
胴体には大きな風穴が開き、夜の幕開けを示すような冷風が、ついにその頭と胴を分離させた。ぐちゃ、と生々しい音が聞こえたと同時に、通常のニーロの3倍はあろうかという黒円が砂上に広がっていた。ニーロが瀕死の段階になったことを示すものだ。
しかしその中央の紅石にも相違点はあった。
テニスボール大だった紅石は、洞窟のクオーツのような大きさと輝きを持っていた。宝石店にでも並べれば、庶民にとっちゃ多すぎる0が付きそうなほど、それは美麗なもんだった。
「全く……危ないことをする子なんだから……」
NRFに入ってしばらくすると、なぜだかお母さんみたいになってしまう人が存在する。緋里がその好例。紅葉も例外では無く、独り言がお母さんになってしまっていた。
そんな緋里は、腰の装備袋から何かを取り出し、コアに当てていた。
それは、いつぞやの蓮也が使っていたのと同じ、円形の装置だった。Ⅱ型のコアレベルの大きさになると、流石に素手や蹴りで破壊するのは困難になる。そのため、ニーロ発生源の破壊に使うのと同じ装置を用いるのだ。
「コアはこっちで壊しておくから、立花ちゃんの方手伝ってあげて!」
「了解っす!待っててね立花ちゃん……うへへ……」
コアの破壊を進める紅葉からの指示を受け、怜符は若干気持ち悪い笑みと共に、北方の目的地へ走り出した。
怜符には、真性のロリコンであるという更なるカスポイントがあった。
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