Part2
数時間後、世界は朝を迎えた。だが当然斜陽が射し込むことも無く、無機質な電子音が鳴り響くだけだった。それをいの一番に止めたのは、以外にも時雨だった。
彼は意外と目覚めは良い野郎なのだ。
時雨はシャキッと起き上がると、そそくさと部屋を出て洗顔へ。その道中で、というより扉が開いてすぐ、緋里と出くわした。だがこれもいつものことなので、2人は特に気にすることも無かった。
2人は並んで顔を洗った。その間、特に会話が生まれることは無かった。流れ出る水がシンクの上で跳ね返る音が響くばかりだった。そのまま歯を磨き、2人は同じぐらいのタイミングで洗面所を出た。
「そっちは毎日大変だねぇ……わざわざ起こして一緒に向かうなんてさ」
年老いたおばあちゃんのような口調で、実際ちょっとしわがれた声で、時雨は緋里にそう言った。
「……逆に何で置き去りにするの?嫌じゃない?」
クローカは、毎日時雨だけが時間前に訓練所にたどり着く。他3人には毎日朱鷺が金属バットでモーニングコールをかましていた。
して、別に緋里が言ってることは正論ではない。この人だって殺されないギリギリまで遅刻して来るのだから。遅刻しない時間に起こせるのに。
何だかちょっとズレているという共通点のある2人は、同期だった。そのせいで多少性格が似てしまったのかは定かでは無い。ただ、時雨の早起き癖が着いたのは確実に緋里のおかげだった。
NRFの新人は、新人研修の間は新人だけで生活することになる。入隊当初の緋里は本当に真面目なやつで、毎日遅くまで酒を強請る時雨を割と強めに叱ったりしていた。まあそれも1週間ぐらいで諦めたが。
時雨はそそくさと更衣室で着替えた後に部屋の扉を開けた。
「僕は先に行ってますよ〜……」
言葉を意味もなく部屋に投げ、時雨は足早に食堂へ向かった。
他の3人は、未だ眠りこけていた。
そこから1時間ちょい。リーテン・フォーゲルのメンツが訓練所にたどり着き、朱鷺の説教が終わったすぐ後。朱鷺は訓練所を飛び出して生活棟に居た。
扉を開けた。
呑気にアラームといびきを鳴らす3人を見た。
朱鷺は跳んだ。
「死ねえぇぇぇああああ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
「読んだ!」
怜符は目にも止まらぬ速度で起き上がると、真剣白刃取りの要領で朱鷺の金属バットを受け止めようと手を伸ばした。
結果、普通にすり抜けた。
頭蓋骨が砕けそうなほどの快音が部屋に響いた後、それは2回続いた。2人は抵抗の素振りすら見せなかった。
「ああ……そっか、今日任務ない日か……めんどくさ」
「殺すぞ。早く来い」
気だるげに放たれた昴の言葉に、朱鷺から思わず本音が漏れる。
だが実際、クローカはここ最近任務で訓練所にいない日が続いていた。そのため、しばらくはリーテン・フォーゲルのみで訓練が行われていたのだ。
しかし最近はそれも落ち着き、その他上位の2クラスだけに任せられるようになったため、今日から訓練再開といったところだった。
「あと3分で支度しろ。でなきゃもう一発ぶち込む」
朱鷺がそう脅しをかけ、クローカは3人揃って朝の身支度を済ませた。
それから30分経って、ようやく訓練所に8人揃った。リーテン・フォーゲルとクローカ、それぞれ4人の計8人。……ん? ああそうだよ。30分かかったから10回殴られてた。
もう怒りきって言うことも無くなったのか、クローカが訓練所にたどり着いてからは何も無かった。
その後は、いたって普通だった。クローカも流石にここに来れば訓練するしか無くなり、真面目に取り組んでいた。走って、筋トレして、トレーニングルームでダイスを取りだ――
また殴られた。主にクローカのせいで、金属バットの音はNRFのBGMとなりつつあった。そんないざこざもありはしたが、何とか今日の訓練は終わりに差し掛かっていた。
そして今は、一日の締めくくりとなる、実戦想定の戦闘訓練の途中。最初はリーテン・フォーゲルが行い、クローカは端っこで見学という状況だった。
そんな中で、トランプやダイスなんざ取り出させないぞと圧力をかける意味でも、朱鷺はとりわけクローカを注視していた、その時。
朱鷺の耳に緊急の連絡が入った。
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