Part4

 私達は、地底下に居た。

 地底下というのは、私達が普段歩く高さの更に下の空間のことだ。

 生活棟の地底下2階。そこは、『寝室』と呼ばれる空間だった。

 かつて、人類を救おうと尽力し、その命を散らした英雄が眠る場所。だからこその、『寝室』という名前だった。

 その中に、涼花と颯太がいた。

「久しぶり……だね」

 名が刻まれた石碑を優しく撫で、ぼそっと呟いた。

 二人の石碑は横並びで置かれていた。

 どれだけ触っても、無機質な冷たさが残るだけだった。


 先輩、なんか顔暗いですよっ

 何か悩みがあったら、僕にいつでも言ってください


 ふと、後ろからそう聞こえた気がした。あの二人の声だった。今までのとは違う、優しい声。いつも通りの二人の声だ。

 また、涙が溢れ出た。力無く、その石碑に身体を寄せた。でも、少しの笑顔があった。ようやく、あの時の二人と会話が出来たみたいで嬉しかった。その後しばらく、私達はそこにいた。昔の思い出を4人で話して、かつての私を取り戻せたような気がした。



 数日後、私は普通の生活が出来るまでに回復した。

「あ、おかえりー!」

 扉を開けた瞬間、唯織の元気な声が耳に届いた。その声に安心感を覚えつつ周りを見る。ベッドの上には羽瑠がいて、蓮也はソファーに座ってて。いつも通りだった。でもその日常が、たまらなく嬉しかった。

 思えば、あの頃もこんな感じだったな。

 颯太と涼花が部屋のどっかでいつもわちゃわちゃしてて、それを旭が冷ややかな目で見てて。その日常が、ピッタリ重なったように思えた。

「え、ちょっ…ちょっと!まだ怪我治ってないの?どこか痛い?」

 三度みたびも私の頬を伝うそれを見て、唯織が心配そうな目を向けた。私は、それに最大限の愛情を込めた抱擁で返した。

 ありがとう、なんて言葉じゃ足りないくらい。ぎゅっと優しく抱きしめた。私の仲間でいてくれて、あの時から私を救おうとしてくれて――


 大好きだよ。


 気づいたら、口からそう漏れていた。私の心には、自分1人じゃ抱えられないぐらいの優しさが既にあった。だから、皆に分け与えた。

 これからも、仲間としてよろしくねって伝えるみたいに。

「んなっ……や、やだなぁ…もう……、でも、私も大好きだよ。緋里」

 それから、ずっと抱き合っていた。今思えば、少し恥ずかしいものだった。実に百合百合しい、それを男2人の前でやったのだから。でも、彼らが私に向ける目線と印象は変わっていなかった。

 なんなら、普段よりも少し心を開いてくれているような感覚がした。

「頼りにしてるぜ?リーダー」

 蓮也は、それが口癖みたいになっていた。少し茶化すようではあったが、確かに、私を認めてくれていた。

「……背負える?」

 羽瑠は、私にそんなことを頼むようになっていた。いつもは蓮也の背に乗って移動するのに、たまに私の背に乗ろうとしてくるようになった。信頼……なのかは定かではないが、多分彼なりに心を開いてくれているような気がしたので、背負ってあげることにした。なんか蓮也から嫉妬の視線が飛んできているような気もしたが。

 そんなこんなで、私は、リーテン・フォーゲルは、いつものテンションを取り戻した。




 その頃、医務室にて。

「で、緋里はどうだった?」

 朱鷺はベッドを椅子代わりにして座りながら、ちゃんとした椅子に座る桐香に声をかけた。

「……彼女は、あの時の彼女を取り戻していたよ。自由に翼を広げて、笑ってた」

 桐香は、随分前からNRF専属医師だった。だからこそ、今現在NRFにいる者の中で一番NRFについて詳しかったりする。ちなみに年齢は非公開。最近の悩みは更年期障害。でも顔は若々しかった。緋里と並べて同年代だと言われても納得してしまう。

「ふーん……なら良かったよ」

 朱鷺は、安堵を浮かべてそう言った。だが、すぐにそれは曇った。

「で、話は変わるんだけどさ。ちょっと相談したいことがあって――」

 しばらく、朱鷺と桐香の談義は続いていた。

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