Part3

 数日後、この生活にも慣れが出始めた頃。医務室にて。

「なぁ…緋里?あの事に関して……いいか?」

 桐香さんから、そう提案があった。正直恐怖もあったが、向き合わなければならないことだ。私はそれを了承した。

 すると彼女は、手元の端末で誰かへとメッセージを送った。

 数分後、部屋の扉が開いた。

〔久しぶりだな 緋里〕

 聞き慣れた音声だった。そこにいたのは、旭だった。

「私はすぐ横に居るよ。何かあったらすぐ呼んでくれ」

 桐香さんはそう言って、隣の手術室に行った。

 旭と2人きりの空間。ここで自分の過去と向き合え、というのが命令だった。

 旭は隣に椅子を置いて座る。私の手は震えていた。

 その上に、旭は手を重ねた。

〔大丈夫だ お前のせいじゃない それだけははっきりと言う〕

 脳波を解析して音に換える右腕のデバイス。そこから発せられた言葉は、私の意見とは正反対だった。

 二人が死んだのは私のせいだというのが、私の立場だった。私に力が無かったばかりに。私が襲撃に気づけなかったから。

 それに対し、旭はずっと、誰にも責任は無いと言っていた。あの二人が悪いとか、私が悪いとか。あの襲撃は誰にも予測できるものではなく、避けられぬ自然災害のようなものだったと。

「なんで……なんでそんな事が言えるの?」

 私はそう言った。でも、本心じゃなかった。だけど、それを認めるのが怖かった。私に責任は▓▒なんて認めてしまうのが、怖かった。

 また言葉にモザイクがかかる。まるでニュースで不都合な部分を規制するみたいに。

〔お前に責任は無いんだ あの二人に罪悪感はいらない〕

 さっモザイクをかけた言葉が、無修いで耳飛び込む。

 また手がはン斜で動いた。脚をら掴み、爪がめり込むほどニぎり締めようとする。またぐちゃぐちゃな引きずられる。

 でも、旭がそこから引キ上げた。

 私の両手を確か掴んで、胸当てタ。

 その間もずっと手が震えていた。旭破壊衝動をぶつけてしまいそうな程だった。ずっと脳がバグを引起こしていた。嫌な憶を無理やり掘り起こして、強いてんして。バグるエネルギーが無くなるまでバグら続ける。

 食物アレルギーをアレルゲっ取で軽げしようとさるみたいな、でも今のは、よるものでもないし、量だって最初から皿いっぱいのを食わるようなものだ。

 一歩間違えば、そのまま死一直の荒療治だった。

 でも、これ█▓▒▅▇▃▓しか▒▓█▅無▃▇▓い。今█▃▇▅ま▓█でこれを▄█▒▅▓▒▃避け▇▒てき▅▓たから▒▃▅▇こうなっ▓▒▃てだッ!! こ▄█▓▅▒▇なの█▓▅▇二人は▄█▇▓――


 お前が心配することは何も無い


 お前は一生私達に謝り続けろ。


 認めろ お前は悪くない


 認めろ。お前に全責任があるんだ。


 受け入れろ あの二人は仲間だろ


 受け入れろ。私達は仲間だろ?


 ……! ……?! ……!?? ……!!! …………!? ……!

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 昔、二人が死んだ直後。私は正直諦めていた。あんな存在に、勝てるわけが無いと思った。

 その心の弱さが、尚更足枷を強固なものにしたのだと思う。

 あいつには勝てないという事実を誤魔化すために。あの二人への罪悪感が丁度良かった。それが混ざりあって、私をあの状態に縛り付けた。

 旭はあの事件の後すぐ、突発性難聴を患った。過剰なストレスが彼を壊したんだ。

 でも、彼は諦めていなかった、ずっと努力していた。アイツを殺すことが唯一の道だって気づいて、認めていた。

 一度、旭は私にチャンスをくれたことがあった。

 私を叱ってくれた。

〔お前の考えは間違ってる そんな感情じゃどうにもならない〕

 私はそれを跳ね除けてしまった。

 そのまま、旭とは離れ離れになってしまった。ファルクに所属して、感情としても、事実としても、雲の上の存在になってしまった。

 その時、リーテン・フォーゲルは私一人になった。そのまま、名前だけのリーダーという称号が与えられた。

 そして、唯織と出会った。唯織は本当に優しい子だった。こんな私を受け止めて、諭して。あなたは本当のリーダーだ、なんて言ってくれた。でも、完全に霧は晴れなかった。

 そんな状況で時は立ち、再びカムラと遭遇し、足枷を強烈に再認識させられた。

 そんな私を、今彼はまた救おうとしてくれている。

 最大限の善意と愛情を以て、諭してくれた。

 そうだよね。こんな私じゃダメなんだ。

 こんな私は――あの2人も望んでないッ!!


 ようやく、翼を広げられた心地がした。

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〔縛られなくていい でも 忘れるな ただ手を繋げばいいんだ〕


 一瞬。本当に一瞬。脳は走馬灯のように過去を探り始めた。脳がショートした。ある意味、リセットされた。

 そこに書き込まれたその言葉。

 手の震えは、収まった。

 代わりに、頬を涙が伝った。

 二人は死んだのだと、改めて認識した。

 理由はそれだけの、単純な涙だった。

〔俺も悔しいし 悲しい でも この感情はカムラを殺さなきゃ解消できない〕

 旭の体を抱いた。

 あの二人の死は、確かに悲しいものだ。だからこそ、そこから学ばなければいけない。それが一番の贖罪しょくざいだ。

 絶対カムラを殺して。ニーロを殺して。人類を地上に押し上げるんだ。


 もうアイツらには誰も喰わせない。


 目をしかと開いて、覚悟と共により一層力を込めた。

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