Part5
こちらに一角を向け前傾して浮かぶ立方体。その上に、人間のような者が座っていた。
肌はこの世界の人間らしくベージュ色で、顔つきだって一般的な少女のようなものだった。服装にも大した違和感は無く、シャツの上にパーカーをまとっていた。
ではなぜ"ような"なんて言葉を使ったのかと言えば、彼女の首元、鎖骨の間に、奇妙な紋様があったからだ。
それが示すのは、彼女は人間ではなく『特異体』と呼ばれる存在だということだった。
「やっほー、リーテン・フォーゲルのみなさーん。お久しぶり〜」
特異体――通常のニーロと異なり、強力で凶暴なニーロの個体がそう呼ばれていた。
厳密に言えば少し基準は異なるのだが、間違いなく言えることとして、4人の目の前に存在する彼女は、ニーロなのだ。それも、とりわけ強力な個体。
そして、特異体にはそれぞれ個体名が付けられる。
彼女は、【code:sprout 〈
『10分以内に救援を送る。それまで……命を繋げ』
与えられた命令はそれだけだった。否、それだけしか出来なかった。
特異体というのは、通常のニーロを遥かに凌駕する力を秘めている。ニーロの身体を構成している物質――源物質を生成することができるというのが特異体全員に共通してあり、こいつに関しては、その性質を如何様にも変化させることができた。土、鉄、ゴムやプラスチック。果てには料理なども。
単体・化合物問わずそれは可能で、物質に限らず形を持たない炎や電流でさえも生み出すことが出来た。
つまり、先程の刃もそれによって生み出されたものだった。
「っ……!」
誰かが、そう息を飲んだ。それと同時、カムラは本格的にその片鱗を見せ始めた。
奴の背後には幾つもの種類の刃が浮かんでいた。大小様々なそれは、まるで神の光輪のように浮かび、そして、こちらに飛来した。
4人は、武器をろくに持っていなかった。先程全て車内に片付けてしまったからだ。当然、それを呑気に拾ってもいられなかった。4人は、その身1つで逃げ続けた。
「あははっ、凄いねぇっ! 前会った時とは大違いだ!」
カムラは、ケラケラと笑いながら攻撃を続ける。
東西南北あらゆる方向から神速の刃は飛来し、しかし、カムラの顔には余力を感じさせた。
完全に、弄ばれていた。
………!……!?…?…!!
そんな中、ある1人が他を圧倒する衝撃に襲われていた。瞳孔は開閉を馬鹿みたいな速度で繰り返し、心臓だって同じだった。呼吸のペースも乱れ、まるで、脳内で信号がこんがらがって、ある種のバグを引き起こしてしまったような、とにかく異常が起きていた。
その人は、他でもない霧島緋里だった。
額と背から汗が染み出し、暑いのか寒いのかの判断すら曖昧になりだす。目の焦点が合わない。
何故だか全身に鳥肌が立つ。
パニックを起こしていても、何とか本能で生き延びようと試みていた。でも、そんな大きな負荷をかけ続けたからだろうか。
脳のバグが深刻化してしまったようだ。
彼女の視界には、一瞬幻覚が映った。
2人の人間だった。1人は、小柄な少女。もう1人は、大柄な男。
2人とも、面識はあった。親友だった。仲間だった。でも、それは全部過去のものだった。
瞬間、その2人の頭が滑り落ちた。首を、黒い刃が貫いた。
ぁ、あぁ。……!?…?…!!…?…!……?♩│Х▅█Х♩°%▄│♩│′♡│♡>██♡″♯♬♯✤'*✿♬З▇▆▂<┘∧з▆┃┐ゞЗ▂▆▃、#〈{}〉( ╲=﹣-/)-_\/”#=▓▇▆▂▃#▁〈#〉▇▓▆▃▆={}^εш↑、♪{▄%▅}°♩%▄
彼女の言語機能も、感覚でさえも活動をやめてしまった。
俺は、何が起こったか、理解が出来なかった。
馬鹿みたいに走り回って、逃げ回って、救いを求めていた。その最中に響いた叫び声。
視界が伝える通り、それは緋里のものだった。腹を抉られ、抑え、悶えていた。
カムラを見た。羽瑠と唯織を向いていた。
だから、緋里に走った。
『蓮也!お前まで死ぬかもしれないんだぞ!』
耳元から、そんな呼び声も聞こえた。それでも無視して、遮蔽の無い空間に横たわる緋里を抱えた。別に、このまま死ぬことに嫌悪が無かった訳じゃない。
ただ、動けば助かる可能性のある人間を、放っておきたくなかった。
奇跡的に岩陰に隠れ、緋里を砂上に横たわらせ様子を確認した。自分の現状を理解しているのか、していないのか。ハッキリとしない目だった。知識も何も無い俺でも分かる、明らかなパニック状態だ。自分の足元にまでその血が染み出し、確かな死の匂いを感じさせる。
そんな現状に焦りを覚え、前を向いた瞬間だった。
黒鉄が、緋里に迫っていた。その鋭利な先端を心臓に向け、確かな殺意と共に迫っていた。刃の向こうでは、カムラが薄ら笑いを浮かべていた。
刃に手を伸ばした。受け止めるためだった。
でも、それは叶わなかった。
しかし、緋里の身体に傷がつくことはなかった。
刃は、右へ大きく逸れた。1人の男が、それを蹴り飛ばしたのだった。
〔大丈夫か〕
声、では無かった。ただの音だった。
それは、男の――〈
ファルクの隊員、それが、朱鷺の言う救援だったようだ。
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