Part4

 羽瑠と緋里が東側から、唯織と蓮也が西側から回るように、外側から爆薬を仕掛けつつクリアリングしていく。両グループがそれぞれ指定された外縁の施設に爆薬を仕掛けた後に中央部に集まり、そこにも爆薬を仕掛ける。道中でリベリアーズの隊員に遭遇した場合、その都度即座に殺害していくというのが、この作戦の行動パターンであった。

「蓮也、足音する。やるよ」

 西側、唯織がそう呟いた。蓮也もそれに反応し、銃口を正面へ向ける。

 その時、建物の角から人間が飛び出した。顔に面を着け、その上でフードを深く被った人間。男も女も区別のつかないそいつは、銃口をしっかりこちらに向けていた。

 それでも、反応はこちらが早かった。

 唯織が低姿勢で脚を撃ち、蓮也は相手の銃口の向きに合わせて身を傾け、顔面を狙って半マガジン分程弾丸を送る。

「っづ…あ゙あッ……!」

 2人からの攻撃を一身に受けたそいつは、そんな呻き声をあげた。脛と首元から赤色が流れ出し、その苦しみを確かに感じさせる。

 だが、2人はそんなことで躊躇う人間では無かった。この砂上に倒れ伏すまで、撃ち、刺し、殴り続ける。その決意があった。

『西側にもう2人向かってる。東側はもう少し時間がある、ひとまず爆薬を仕掛けるのに集中しろ』

 上空からの視界でそう助言をする朱鷺。普段とは違う、命令口調だった。

 その言葉通り、蓮也らの前には2人の人間が現れた。しかしそれに怖じける様子も無く、2人は引き金を引き続けた。

「……!一人逃げたぞ!中央からッ!」

 新たな刺客を捌きつつ、視界から外れた1人を見て蓮也はそう叫ぶ。耳元のデバイスは、指令だけでなく隊員同士の連絡手段でもあった。



「羽瑠、後ろ見といて。私が設置する」

 先程の蓮也からの連絡を受け、羽瑠に死角を警戒させる。

 緋里は、背中のバッグから爆薬を取り出した。それは蓮也が背負っていたものと同じ、やや小さいものだった。

 片手で握れる太さの長方形の爆薬。朱鷺と隊員側で機器を操作することで起爆できる。

 緋里はそれをテントに貼り付け、内部の設定を終わらせる。

「やっぱりこっちに来そうだ。緋里の方」

 そう言った羽瑠は、確かに目を開いていた。ヘーゼルの虹彩が露わになり、しかし、いつぞやの任務の時のように暴走する素振りは見せていなかった。あの状態は、以外と複雑な条件が絡んで発露するらしい。

 また、羽瑠には西の端からの音が聞こえていた。

 耳元のデバイスは、補聴器のような役割もある。聴力を人間以上に引き上げ、遠方の足音や息遣いでさえも拾う。その上で銃撃音や爆発音は適度に抑える。実に優秀なものであった。

『東に向かってるな……緋里の方からだ。羽瑠もそっちの警戒にあたっていい』

 その声も参考に、2人は陣形を組んで対応にあたる。

 羽瑠が前側に出て、緋里が後ろからサポート。やはりこちらも同じであった。

 そこに、蓮也らから負傷させられた人間が走り込んだ。そいつは、身体中に爆弾を付けていた。

 自爆テロのような感じだった。自分の手に持つ短刀で衝撃を与え、起爆させるつもりのようだ。

 だが、こちらだって建物に爆薬を仕掛けているのだ。そんなことをされちゃあ、連鎖爆発が起こって少なくともこの2人は死んでしまう。

 だから、着弾点の制御が効きにくいショットガンを持つ羽瑠は静止した。代わりに、緋里が前へと肉薄する。彼女が選んだ手段は、最大限静かなものだった。

 銃口を腹の爆弾の無い箇所にねじ込み、怯んだところ、脳天に蹴りを入れる。そのまま倒れ伏した所を、喉元にそいつの短刀を差し込んで殺す。実にスマート、彼女らしいやり方だった。

「あっぶな……まさかまた同じ手法で来るとは……」

 爆弾を剥ぎ取りつつ、今年で隊員歴4年目になる緋里は過去にあった類似事例を振り返る。

 ただ、幸いにもこんな出来事はこれだけで終わった。その後は何事も無く爆弾の設置を終え、4人は中央に集まった。



「よし……これで全部だな」

 中央にそびえる通信塔のようなものに爆弾を設置し、蓮也はそう呟く。確かにこれで設定した箇所全てに爆弾を仕掛け終わったことを、空になった背の鞄が示していた。

 加えて、朱鷺がドローンで細部をチェックし、その事実を確かめる。

『うん。問題なさそうだ。じゃあ皆外に出て』

 朱鷺のその声に従い、4人は基地の扉を開けて外に出た。その装備と手には、全員もれなく返り血が付着していた。程度こそ小さなものではあったが、人を殺したのだという事実は隠しきれないものだった。

 時間でいえば精々3~40分ほどだった。ただ、心境というのは人間の時間感覚を狂わせてしまうもの。4人にとっては、それが何時間にも感じられていた。

「疲れたぁ……てか寒ぃ……」

「……zzz」

「お前なぁ……割と重いんだよ」

 リーテン・フォーゲルの中には、疲労の空気感が漂っていた。唯織は身を震わせ、羽瑠は蓮也の背でやはり睡眠に興じていた。

 そんな中、緋里は腕のデバイスを操作していた。NRFの施設での鍵のような役割も果たす、万能なもの。

 緋里はそれを用いて、起爆の準備を進めていた。専用アプリを操作し、やがて画面にはボタンが映った。

「こっちは準備出来ました」

 緋里はそう朱鷺へ言って、ボタンの上に指を合わせる。しかしそれを押すだけでは起爆せず、朱鷺が司令官室からも同時に操作を行うことで起爆出来るようになっていた。

『距離は十分に取ったね?じゃあ……行くよ』

 その確認の後、3カウントがあった。

 その瞬間、辺りの闇は基地と共に吹き飛んだ。激しい音と光を放ちながらそれは爆発し、周囲の鉄柵も、曲がり、折れ、吹き飛んでいた。

 実に一瞬の出来事。でも、蓮也と羽瑠にとっては、深く脳に刻まれた経験だった。

 この任務は、これにて幕を閉じた。それに朱鷺を含む5人は心の中で胸を撫で下ろし、帰還の準備を進める。鞄と銃火器をトランクにしまい込み、朱鷺と共にその数を確認していく。任務が終わった後というのは、これが常であった。

 そして、そのまま車に乗り込むというのが次の段取り、だった。


 黒い刃が、車両を真っ二つに切り分けた。


 全高2、3mはあろうかという車両が、1つの刃によって横から分断された。

 その場にいた全員が、状況を理解した。

 自分達は今、悪夢のような災難に巻き込まれてしまったと。

 朱鷺は、画面越しの視界でその元凶を捉えていた。4人も同じだった。

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