Part3
朱鷺が向かっていたのは、訓練所後方に存在する扉。両開きの自動ドアのようで、朱鷺が近づくと、ひとりでに開いた。
その先にあったのは、やや横長の空間。先程の訓練所の3分の1ぐらいの大きさだろうか。
それでもかなりの大きさのあるその部屋の中にあったのは、数多のトレーニング器具だった。ダンベルや、トレーニングマットなど色々。
そう、続いて行う訓練は、これまた単純な筋トレだった。とは言っても内容はかなりキツイもので、辛さで言えばランニングよりも圧倒的に上だった。
朱鷺はそんなトレーニングルームの中に、引きずってきた2人を適当に放った。
その後に部屋の用具棚に置かれたメトロノームを取り出すと、抑えられた針を外し準備を始める。
「じゃあ1セット目始めるよ〜?よーいスタート!」
「ちょっ……はええっての!」
朱鷺が無理矢理メトロノームをスタートさせ、蓮也と唯織は慌ててマットの上で姿勢を取る。羽瑠と緋里は既に待機済みであった。
この部屋での最初のトレーニングは、単なる腕立てだった。メトロノームが1度鳴ったら身体を降ろし、もう1度鳴ったら上げる。
それを1セット50回とし、セット毎に5分休憩を挟んで4回。計200回の腕立てである。
「いーち、にーぃ……はい蓮也遅い! プラス10回!」
「はあっ!?ふざけっ――」
あまりに理不尽な要求に、抗議の目線を送った蓮也。その目線に対し、朱鷺は変な言葉を返した。
「そんなことも出来ないなら……あの任務のメンバー変えよっかな〜……」
『あの任務』。そんな不明瞭な単語を用いて、朱鷺は蓮也に言った。わざと言いふらすように、何かを伝えたいかのように。
「ああクソっ…分かったよ…!」
蓮也は、その言葉に大人しく従った。
10回、20回、30回。カチカチと子気味いいリズムを奏でるメトロノームの音色が、鬼教官の激励のような苦痛の音色に変貌を遂げていく。肩から胸にかけて、筋肉が収縮していくような感覚が広がる。40を超えたタイミングから、徐々に腕が言うことを聞かなくなり始める。
42、43、44。
「無理……無理……もう死ぬっ…………!」
言葉を放つだけ余計にエネルギーを消費するというのは分かるのだが、それでも話してしまうのは筋トレの永遠の謎である。
47、48、49。
「はーいラストぉ〜……終了っ!」
「うがぁっ……っ……」
右胸から重力に従って落下し、心臓の鼓動を直に身体中に感じる。腕は神経を切断されたかのように止まり、最早脳も指令でさえ出さずにいた。
「おーい蓮也〜?お前はあと10回残ってんぞ〜?」
そんな蓮也に対し、5分の休憩タイマーを作動させた朱鷺がニヤニヤしながら言った。
「ああ゙もうっ!!やってやるよクソがッ!」
「そうだそうだ。若い奴はこうでなきゃ!」
「朱鷺さんもうアラフォーだもんn」
「死ねぃッ!」
朱鷺はどこからともなく金属バットを取り出すと、アラフォーだなんて単語を持ち出した唯織の頭蓋骨をぶん殴る。ちなみに、朱鷺がアラフォーなのは事実である。
トレーニングはこの後もそんな調子であった。腕立ての後は腹筋。腹筋の後はスクワット。スクワットの後はマシンを使った何か名前のよく分からんトレーニングの数々。
ちなみに唯織は5回くらい殴られた。ちょっと頭が凹んでた気もした。
あれから、3、4時間ほど筋トレは続いた。その後に一度食堂に戻って昼休憩を挟み、同じく3時間ほど続いた午後の筋トレもまもなく終わりを迎えようとしていた。
「はい、お疲れさん」
最後のマシントレーニングが終わった後、朱鷺はそう言って筋トレの終了を告げた。
「よーやく終わった……もう無理ぃ……」
唯織はマットの上に寝転んでそう弱音を吐く。他の3人も、疲労困憊なのは変わらずだった。
「じゃあ10分休憩だ。終わったら訓練所の方にすぐ集まること。それじゃー……」
朱鷺はそう言ってタイマーをセットすると、そそくさとトレーニングルームを去るのだった。
訓練所にすぐ集まれ。
朱鷺の指示の通り、今日の訓練は未だ終わりでは無い。まだ最後の、それでいて最も大変な種目が残っていた――
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