Part6

「もう疲れたよ…なんで私が運転せにゃいかんのさ……」

 文句を言いながらエンジンをかけ、渋々ハンドルを握る唯織。

「しょうがないだろ。NRFにゃ専属運転手雇う金なんてねーんだよ」

 胸元に光る紀章を眺めつつ、蓮也はそう答える。

 その紀章には、四つの鳥の模様があった。

 小鳥、烏、とんび、鷹。

 これは、人類の地上奪還の為形成された組織、ニーロ・リムーブフォースのものだった。

 そして、四羽の鳥の中でも、小鳥が強調されたようなデザイン。

 それは、装着者がNRFに存在する4つの『クラス』の内の1つ、

【リーテン・フォーゲル】

に所属することを示す。

 『クラス』というのは、NRFの隊員を実力順に分けたもので、リーテン・フォーゲルはその中の一番下に位置する、最弱のクラスということになる。

 ただ、最弱とは言っても、そもそもNRFに入るには並外れた能力を求められるため、あくまでNRF内では、ということなのだ。

「むぅ……人類の希望だとか言ってんだから、軍事費増強とか銘打って増税でもすりゃいいのに……」

 確かに、NRFの隊員は『人類の希望』『英雄』というワードをよく投げられる。そのくせこのような待遇とはどういうことだ、とそんな愚痴を吐きつつ、それでも現実はそう簡単には変えられまいと諦め、唯織は車を走らせる。

 10分、15分。ずっと同じ景色が続いた後に、目的地は見えた。

「ほら、そろそろ着きますよーっと」

 そう言った唯織の視界にあったのは、何かの建物の入口のような建造物。具体的に言えば、屋上の排気ダクトのような。正面からみれば直方体。側面からみれば、直方体の1つの角が削れて丸みを帯びた形だった。

 これぞ、地下に存在する最大の建物、NRF本部の地上入口だった。

 その正面にはシャッターのような物が確認でき、車が近づくにつれ徐々に開いていた。やがて完全に開ききったと同時、車は内部に侵入、停止した。

「ふぅ……疲れた……」

「今日も事故で死なずに済んで良かったぁ……」

「んだとお前!」

 そんなこんなでいじり合いをしつつ、4人は車を降り、正面にまたしても現れた大きな扉に向かった。

左側にはタッチパネルのような物があり、唯織がそれに腕を押し付ける。

 すると、扉は中央から分かれる形で開いた。見れば、唯織、そして全員の腕に何やら腕時計の様なデバイスが装着されていた。

 それはNRFの隊員全員に貸与されるもので、この通りNRF本部内での鍵のような役割を果たすのだ。

 4人は、その扉の先へ入った。

 中にあったのは、武器の収納箱や、装備を立てかける設備たち。戦闘前の準備室とでも言うべきものだった。

「ふぅ……重いんだよなぁこれ」

 緋里がアサルトライフルを仕舞いながらそうぼやく。そんな彼女は疲れた顔で装備を外し、シャツと長ズボンという実にラフな格好になった。そのシャツの胸元には、装備と同様、紀章が描かれており、下部には小さく名前が刺繍されていた。

「んんっ……疲れたぁ……」

 唯織はそんな愚痴を零しつつ、内側にも設置されたタッチパネルに再び腕時計を押し当てる。やがて扉が閉じ切ると、その部屋は、下降を始めた。

 4人がいたのは、数十年前に建設された、地上と地下を繋ぐ唯一のエレベーターだった。

 任務を無事終えた英雄達は、地中の基地へと帰還するのだった。

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