Part5

 一度装甲車の方へ戻った2人。

 2人は、そのトランクの中をゴソゴソと漁っていた。

 そこにあったのは、弾薬箱やら予備の銃火器やら応急処置用キットやら。戦地にあって違和感のないものが大量に積まれていた。そんな山の中から、蓮也は何かを引き出した。

 それは、一つの箱だった。いわゆるガンケースのような、そんなやつだった。しかしながらそれをガンケースというには無理があるように思え、ハンドガンさえ入るか怪しいという所だった。

 そんな箱を、蓮也はゆっくりと開けた。

 その中には、円形の装置のようなものがあった。

 それを保護するように成型されたスポンジが箱と装置の間を埋めている、丁寧な梱包だった。

「……毎度思うが、一々こんな丁重に入れる必要あるか?」

 蓮也はそう疑問を持ちながら、中身を取り出して箱を戻した。

 その装置のサイズとしては、成人男性である蓮也の手のひらでしっかりと掴める程。少しばかり複雑な構造をしているように見え、中央部にボタンの様な凹みがあった。

「まあ、何かの拍子に起動しても困るしね……でも、厳重過ぎて悪いことはないでしょ」

「そういうもんか?ま、いいか。……お前いつまで探してんだ?」

「いつもは手前の方にあるはずなんだけどね……先行ってていいよ。ちょっと時間かかる」

「あいよー……」

 目当てのものを探すのに未だ時間がかかるらしい緋里とそう言葉を交わし、蓮也はすっかりがらんどうになった戦場へと戻るのだった。

「あっづぃ……疲れたぁ……」

「うん……ぁ……ぬぅ………」

 そこには、戦闘狂の雰囲気などさらさらない2人の姿があった。唯織は砂上に仰向けで倒れ、羽瑠はベッドの上かのように睡眠の体勢をとっていた。

「そんな疲れる作業でも無かったろうが……」

 そんな2人を見て呆れる蓮也。しかし深くは構わず、目の前にそびえるポーンのような塔に向かって歩を進めていた。先程までニーロを生成していたその塔は、しかし今はその活動を行うことはなかった。

 ニーロの生成には、かなりの間隔が空くのである。

「緋里?もうやるぞ〜?」

 そんな塔の正面に、蓮也は立った。

 近くで見るとより感じる、塔の迫力。自身の背丈の2、3倍はあるかというその塔に対し、蓮也は臆することなく、車両付近で立つ緋里に声をかけた。

「うん。準備出来たよ!」

 その声に返事をした緋里の手には、蓮也のものとは異なるデバイスが握られていた。ラジコンのコントローラーのような、横長の操作盤。緋里はそれを用いて、上空に浮かぶ一機の小型ドローンを操っていた。

「じゃあ……やるか」

 緋里の準備が終わったのを確認すると、蓮也は塔に手元の装置を押し付けた。ボタンの面は蓮也の手の平を向き、それは塔の壁面にしっかりと固定される。

「3……2……1――」

 蓮也は、カウントダウンを始めた。

「……0っ!」

 蓮也が中央部のボタンを押したと同時。

 僅かな金属音が鳴った。

 その瞬間、塔の壁面には、装置と同じ高さに亀裂が入った。その亀裂は徐々に拡大していき、やがて、塔はポキリと折れてしまった。まるで台風で折れた木のように変貌した塔。

 その切り株の部分は、ニーロのコアと似たような紅い輝きがあった。しかし、そこには異なる点もあった。

 何やら緑色の液体が付着しているのだ。

 塔の倒壊と同時に砂上に落下した装置の背面にもそれは付いており、それが示すとおり、その液体は蓮也が持っていた装置から噴射されたものだった。

 ニーロを生成する塔の内部を溶かし、破壊する。

 それがその装置の役割だった。

「っし……異常なし」

 ボタンを押すと同時にその場を離れていた蓮也は、ニーロと同様霧散する塔を眺め、そう呟いた。

「お疲れ、写真もバッチリ」

 緋里は操作盤に備え付けられた画面を見つつ、先程ドローンで撮影したらしい写真の出来を評価する。

「そこの2人!さっさと帰るぞー?」

 蓮也は、相も変わらず寝転ぶふたりにそう声をかけつつ、車の方へと戻っていく。

 それに反応し、2人ものそのそと車内へと戻るのだった。

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