Part4
代わりにあったのは、黒い水溜りのようなものだった。
ニーロの体表と同じ性質のそれは、綺麗な真円状に広がっていた。この砂漠に吹き付ける軟風にその表面を揺らす様は、やはりニーロと変わらないものだった。
それが示すように、この円はニーロの形態の1つであり、ニーロは身体にある程度の損傷を受けることでこの形態へ移るのだ。
そんな円の中心には、1つの小石があった。
何処までも紅い、宝石と見紛うほど美しい石。しかしその実、これは宝石なんてものでは無い。
これは、ニーロの『コア』と呼ばれる物質だった。この形態に移行して初めて姿を現すそれは、いわばニーロの心臓。ウィークポイントと呼べる場所なのだ。
「んじゃ、私たちはおとなしく後片付けといきますか」
「はぁ……あいつらも少しぐらいやってくれりゃいいのに……」
そう文句を言う彼らは、妙な行動に出た。黒い水溜まりに歩み寄り、その中央のコアを踏み割ったのだ。ぴちゃぴちゃっと破片の水音が聞こえたかと思うと、気付けば、足元の水溜まりは石ごと霧となって空気中に消えていた。
この工程を経て、ようやくニーロの排除は完了するのだった。
「っし。あとは…5、6、7、、、多いんだよ…!」
「ははっ……だね〜……私はあっち側やっとくよ」
まるで休み時間の学生かの様に楽しげに談笑しつつ、彼らは尚もコアの破壊を続ける。だが、需要と供給のバランスがあってなかった。
「もっと纏めて来てもいいんだよ!そっちの方が……やりやすいっ!」
「雑魚……もっと……強者を連れてこい……!」
唯織と羽瑠がこの二言を発する間に、6匹死んだ。
「早いっつの!お前らもコア潰すぐらいやれよ!」
蓮也がこの一言を発する間に、4匹死んだ。
「だから……こんぐらい出来るだろ!なあ!」
蓮也がこの一言を発する間に、7匹死んだ。
尚、この一連の流れの間に破壊できたコア、2人合わせて5個。災害時の電力もびっくりなぐらい需要と供給のバランスが取れてなかった。供給過多と言ったところだ。ただ、彼らも決してコアを破壊したいという需要を持っている訳では無いのだが。
「くっそ……このままだと……」
蓮也は未来を案じた。
理由は、視界の中央にあった。
やや遠方に見える水溜まり。それには、ある違和感があった。波打っているのは変わらずだが、それに規則性が生まれていたのだ。
中央のコアを起点に、一定の速度、一定の高さで円状に広がる波。
救助隊のヘリコプターが海上で静止した時の海面のような、そんな波の立ち方だった。何故そんな例えを用いたかと言えば、実際、中央のコアが浮きつつあったからだ。
コアは徐々に徐々に上昇し、それに比例する様に波も高くなっていく。やがて人間の膝程の高さまで上昇すると、波はピタリと止まった。
瞬間、水面より異形の手が伸びた。
幾本もの手は、上昇しようとするコアに反し、それを逃さんと水面に引きずり込む。気付けばコアはミルククラウンと共に消失し、水面には、僅かな波が残るのみだった。
数秒後、その地点から、二脚の脚が這い上がるように姿を見せた。
やがて全身を現したのは、やはりかの獣型のニーロ。まるで水を浴びた後の犬の様に、呑気に身を震わせている。
ニーロは、このようにして再生を行うことができるのだ。
そして、ニーロは視線を回した。
不幸にもそこに映ったのは、舞い戻ったニーロなんざ露知らず、未だ狂気的な速度で発砲を繰り返す、神谷羽瑠その人だった。
「ちっ……めんどくせぇな……」
そこに、蓮也は待ったをかけた。羽瑠の背後からの奇襲を試みるニーロに、アサルトライフルの銃口を向ける。即座に右手人差し指を引き金に当て、反動に対し身体を備えさせた。
そのまま約半マガジン分撃ち込んだ。
全てがスムーズだった。
「おっと……さんきゅ〜……あ、そっちにたくさんいんじゃん!」
「はぁ……ったく……」
あわや死亡寸前だったというのに気の抜けた感謝を返す羽瑠にため息をつきつつも、蓮也は手短にコアを破壊する。そんな蓮也に、作業が一段落ついたらしい緋里が駆け寄った。
「あはは……お疲れ。取り敢えずこっちは終わったよ。でも、もう後は任せちゃってもいいんじゃない?一旦あの2人も終わったみたいだし」
少々苦笑気味の緋里は、2人の方を眺めた。
どうやら2人が狩り尽くしてしまったのかその周りには活発に動き回るニーロの姿は確認できず、純黒の円が散在するばかりだった。
「ああ、だな。後はちゃんとやっとけよー?」
その光景を見て緋里の発言に納得した蓮也は、唯織と羽瑠の方向へそう言って釘を刺す。
「うぇ〜……めんど〜……」
「俺たちが何個やったと思ってんだ!そんぐらい自分でやれ!」
しかしながら愚痴をこぼす唯織に、蓮也は再び釘を刺す。すると、諦めた様子で唯織はため息を吐いた。
「しょうがない。羽瑠さんや、ちゃっちゃとやりましょ」
「うんぬぅ……あぃ……」
2人はそう言って渋々その仕事を承諾し、付近にいくつも転がるコアを一つ一つ破壊して周るのだった。
「んじゃ、俺らはあっちの準備するか」
「だね」
そんな様子に一旦の安堵を覚えた蓮也と緋里は、そう言葉を交わし、車両の方へと戻るのだった。
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