Part3

 車両が黄土色の砂の上を駆け始めて、数分。

「おっ、見えてきた!」

 そう言った唯織が視界に捉えたのは、砂上にそびえる1本の塔のような何か。上から下まで、到底自然物とは思えないようなほどの純黒に染まっていた。高さは4、5mほどと推測されるそれは、チェスのポーンのような形状をしており、頂点は球状になっていた。

 それが、彼らの目的地だった。

 唯織はそこから少し離れた地点に車を止めると、安心からか、ふーっと一息ついた。

「やっとか……おい、羽瑠。準備しろ」

 蓮也は羽瑠の肩をそう言って叩くと、ドアを開け外へ出た。

 その先は、灼熱の空間だった。上空からは多量の紫外線が降り注ぎ、砂粒に反射して身体にダイレクトに届く。

 そんな状況の中で、4人は武器を手に車を降りた。

「相変わらず、変な塔だな」

 蓮也は車の傍で、先程の塔を見て言った。それには、1つの違和感があった。

 この空間にジリジリと照りつける陽光。

 塔は、その一切を反射していなかったのだ。

 まるでブラックホールが如く光を飲み込んでいるのではと感じさせる、異様な性質。それに加え、時折液体のように表面が震えているような動きを見せることもあった。

 そんな塔に、4人は武器を構えつつ近づいていく。

「しっかし、今日は結構ニーロいるね……」

 その最中、緋里はそんなことを呟いた。見ていたのは、塔の足元。そこには、いくつかの黒い塊が蠢いていた。塔の中から排出されるように生成されるそれは、塔と同じように光を吸収する黒に包まれた、獣のように四足歩行を行う生物。液体のように揺れるのも変わらずだった。

 緋里が言ったように、それらは【ニーロ】と呼ばれる生物だった。彼らは、あの塔から産まれていた。

 そんな彼らは、かつてこの地上で人類を虐殺し、人類とは敵対関係にある種族。その前で、4人は立ち止まった。 

「手短に終わらすぞ。あちぃんだよここ……!」

「だね。ちゃっちゃとやろう!」

 その言葉を皮切りに、ニーロとの戦闘が始まった。

 数秒後、奴らもこちらに気づいたようで、一匹が唯織をターゲットに駆け出した。砂を蹴り上げ風を切りながら、ニーロは唯織へ肉薄していく。

 やがてその距離が数メートルほどになると、ニーロは唯織の顔面めがけて飛び込んだ。

 闇夜をも超えるような黒の口部が開き、その上下に備えられた純黒の牙が露になる。

 だが、それに怖気付いた様子も無く、彼女は銃口をニーロの顔面に突きつけた。

「ははっ!無策な子はやりやすくて助かるよ」

 そのまま引き金に圧力をかけ、圧倒的な連射速度でもって対抗してみせる。

 車内での頼りなさからは一変、口の端を吊り上げて弾丸を撃ち込むその様は、歴戦の軍人が如く頼りがいのあるものに見えた。そんな唯織は、未だ銃口の煙が消えぬ内、既に次のターゲットに向けて走り出していた。

「んにゃぁ……あつぃ……」

 その横で、ショットガン片手にダラダラと歩く男が1人。羽瑠は周りの状況など見向きもせず、ひとまず目についたニーロに向かって歩く。

 銃口は地面に向き、瞳も開いているのかすら分からないほどに細まっている。

 ニーロにとっては、格好の獲物だった。

 油断しきったかに見えるその男を食い殺さんと、ニーロは急接近する。

 虚ろな羽瑠の瞳に、ニーロの牙が映った。

 刹那。

 羽瑠は既に引き金を引いていた。

 眼前に迫っていたニーロは、まるで雨中の水溜まりのように体表面が跳ねている。

 彼は、この一瞬でニーロをいなしてみせたのだ。

「次……次……!」

 血走った瞳でそう独り言を呟く羽瑠。先程のゆるふわな雰囲気は消え失せていた。

一言で言うなら、戦闘狂の顔だった。

「凄いね……あの2人」

「……普段からあんぐらい頼もしけりゃいいんだけどな」

 車内での光景を思い返しながら2人の背を眺め、緋里と蓮也はそう独り言を呟いた。複雑な事は考えず、ただ目の前にいるニーロを殺すことしか考えていない2人。その周りには、大量のニーロの死体が転がって……はいなかった。

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