Part2

 ――無限に続くような砂原の上。一台の装甲車が、何処かを目指して走っていた。

「あと何分だ?」

 その車内にて。後部座席で外を眺めていた男、〈あずま蓮也れんや〉が言った。乱雑に放置された黒髪、若干閉じかかった瞳、力なく放り出された足、少しばかり曲がった背中。

 ダメ人間、怠惰、ろくでなし。そんな言葉達を体現したみたいな人間だった。

「多分3分とか?分かんない!」

 蓮也の問いにそう反応したのは、この車の運命――もとい、ハンドルを握る女、〈君山きみやま唯織いおり〉。ハンドルを両手で力いっぱい握り、目はガン開き。


――かもしれない運転…かもしれない運転…あれ、ハンドルの手って何時何分だっけ……9時15分?8時20分?


 そんな独り言が聞こえてくる。多分、いや絶対。運転させちゃいけない人だった。

 そんな彼女はセミロングの茶髪の、ちゃんと見ればそこそこ……かなり可愛い人だった。だが、先の独り言といい姿勢と言い。初見の感想は可愛いよりも心配が圧倒的に勝つ。


――8時20分だとなんかな......しっくりこないんだよ......やっぱり11時5分とかのが......


 そんな独り言と共に、唯織はハンドルを見つめていた。

 今まさに、この車が岩壁に激突しようとしているというのに。

「ちょちょちょ!前前前っ!」

「うぇ?あ、あぁぁぁあああっ!」

 心配が現実になりかけた。助手席からの指摘により、唯織は急いでハンドルを左に切る。

 助手席に座る人間が、文字通り助手として完璧に働いた瞬間だった。

「あせったー……ってか、今どきハンドルの手で迷うことある?」

 呆れ気味にそう言ったのは、〈霧島きりしま緋里ひかり〉。丁寧に整えられた髪、伸びた背筋、先程のように周りを見て指示を出せる心の余裕。これまでの2人とは大違いのまともな人間だった。やや短めの黒髪の彼女は、唯織と少し毛色は違えど、確実にモテる顔面だった。

「いやいや、ハンドルの位置って大事でしょ。何だっけ、7時25分?」

「どんなシチュエーションで使うんだよその位置!普通に真ん中ぐらいに置いとけば良いの!」

「真ん中……」

ピーッ!

「びゃぁぁぁあ゙あ゙っ!」

「……馬鹿なの?」

 まぁ確かに真ん中ではあった。絶対に一般人であれば選択肢として浮かばないが。

「真ん中は真ん中でしょうがぁ!騙したな!」

「何でこっちが怒られるんだよ!」

 突如として始まる、美少女同士の漫才。その様子を、蓮也は冷めた目で眺めていた。

「……こりゃあと8分はかかるな……羽瑠、何か面白いこと無い?」

 これから予見される暇に備え、備蓄を作っておこうと、蓮也は隣の男に声をかけた。

「ぅぁ……ぅん……んぁ……」

 蓮也の右隣に座りし男、〈神谷かみや羽瑠はる〉。左からは声なんざ何も聞こえませんとでも言うように背もたれに身体を預け、頭は窓にもたれかかっていた。

 端的に言えば、寝ている。ガッツリ寝ている。それはそれは大層幸せそうな顔で。陽光は彼の金髪をより一層輝かせ、黒で統一された車内では、彼が一番目立っていた。

「はぁ……こっから何すっかな……」

「えぇっと…ここから東に……東って左側?」

「右だって……本当にもう……」

「ぅにゃあ……ぁぅ…ん……」

 こんな個性に溢れた4人だったが、2つ、共通点があった。

 1つ目、服装が普通では無いこと。

 車内と同様、黒で統一された、フォーマルな服。しかしながら腰の部分に注目すると、マガジンケースや、2本分のナイフケースが確認できる。言うなれば、戦地へと赴く人間の服装、いや、装備と言うべきか。

 2つ目、銃火器を所有していること。

 蓮也・緋里はアサルトライフル。

 唯織は、横に置いてはいるが、サブマシンガン。

 羽瑠はショットガン。

 肩紐に任せ、銃身を身体の前側に垂らしている者。銃身の前部を支え、何時でも引き金を引けるような臨戦態勢の者。

 ……抱き枕かのように抱きしめている者。

 種類、持ち方は違えど、全員強力な武具を所有していた。

 そんな物騒な車両は、尚も砂漠の中を駆け行くのだった。

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