第二章 始動
Part1
とある日の、NRF司令官室。
エントランスの無駄に豪勢な階段を登った先にある、文字通り、司令官が様々な作業を行う部屋のことだ。入口から見て左右にある壁にはいくつもの資料が詰まった棚が並べられ、そのどれもが、鍵をかけられ厳重に管理されていた。
しかし、入口の真反対の壁だけは、何やら雰囲気が違った。壁の棚も入口扉も置かれたインテリアも何もかも木製で統一された部屋に合わず、無機質な金属製の扉があった。
それは、司令官が遠隔で指示を出すための部屋の入口であった。その部屋の全貌というのは、司令官のみぞしる深淵。建物内の清掃などを担当する事務や、他の隊員含め、基本的には全員立ち入り禁止の区域である。まあしかし、特に立ち入る機会もないのだが。
「ええっと……こっちが昨日の任務のやつ……」
そんな部屋の扉の前、司令官室後方に置かれたアンティークな机の上でモニターを眺め、朱鷺は報告書――地上での任務にあたる隊員が結果を報告するために作成する書類――の内容に目を通していた。
隊員にはそれぞれ、入隊時に2種類のデバイスが貸与される。
1つは、施設内を自由に移動する為の鍵となる腕時計のようなデバイス。内部には隊員の詳細な情報が記録されているため、もし紛失でもしたらとんでもなく怒鳴られる。主に朱鷺が。
2つめは、薄い板状のスマホのようなデバイス。使用頻度で言えば、こちらの方が高いだろうか。隊員間でのコミュニケーションや、司令官からの連絡、報告書を作成する際などに用いられる。
それを通じて報告書は司令官に送られ、都度チェックされた後に厳重に保管される。
「よし、おっけー……お」
丁度朱鷺がチェックを終えた所。入口の扉が叩かれた。
やや錆びた蝶番が音を鳴らし、ノックの主の入室を許した。
そこにいたのは、リーテン・フォーゲルの4人だった。
「連絡事項って何なんだ?面倒な仕事か…?」
口を開いたのは、蓮也であった。身体の前側にコアラのように羽瑠が抱きついていたのが気になり過ぎるものの、朱鷺はその声に応えた。
「任務のことではあるけど……まあそんな複雑なことじゃない……が。その体勢でホントに合ってると思うか?」
任務、というのは、NRFの主たる仕事である。先日リーテン・フォーゲルが地上にて、ニーロの発生源を破壊したのは、よくある任務の一環だった。しかし内容はそれ以外にもあり、日によって様々なものが言い渡されるのだった。
して、その任務の内容を伝えようと立ち上がった朱鷺だったが、すぐにその歩みを止めた。
「与えられた権利を行使してるだけです!」
ふふん、とかいう効果音が付きそうなドヤ顔で朱鷺を見る唯織。彼女は、室内中央の巨大なスクエアテーブルを囲うように並んだ椅子に、どんと腰を下ろして足を組んでいた。ちなみに、他の3人も気づけば同じ感じになっていた。蓮也も足組んでるし、緋里は欠伸をして寝落ちてやろうかといった感じだった。
「去年はこんなんじゃ無かったのになぁ……」
NRFは、毎年4月に新人入隊試験を行う。20歳になる国民全員が強制的に受けさせられ、厳しい基準をクリアした者は、新たな隊員となることを義務付けられている。そう、拒否権はないのだ。
そして、新人隊員は2ヶ月の育成期間を経て、クラス選別試験へと挑む。
今年入隊の羽瑠と蓮也も、当然これを経験していた。
また、これには現役の隊員も参加するため、毎年クラスのメンバーというのは変化するわけだ。ただ、人間の性質はその周囲5人の平均だ、とも言われるように、メンバーが変わると、かなり性格などが変わる者も少なくない。
しかし、メンバーが変わるタイミングはそれだけではない。仕事の内容が内容な為、任務中の死亡が最たる要因だった。ここ最近は奇跡的に死亡者は出ていないものの、毎年1、2人は死亡者が出るのが基本で、特に2年前は、"悪魔の年"なんて呼ばれるぐらい悲惨だった。
計6人もの死者が発生し、NRFの顔ぶれはそれからガラッと変わってしまった。
「そんなんいいから、早く詳細教えてください?」
「昔はもっと真面目だったじゃん……」
かつての緋里を思い出しながら、現状をそう嘆く。
緋里の外面は真面目そのものであり、3年前の入隊当初は中身もその通りだった。しかしながら、彼女と同じクラスのメンバーはなぜだか不真面目な奴が多く、それに影響されたのかちょっと頭のおかしい人になってしまったのだった。
しかし現実はそう変わらんとすぐに諦めをつけ、朱鷺は咳払いでそのまま本題に移った。
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