第5話 サンタの秘策


 ――12月25日午後11時30分――



「……さん……サンタさん、起きてくださいよ……」


 相棒のトナカイが困ったような表情で先程からずっとサンタのことを起こしていたのだが、熟睡してしまったサンタは、夢心地でなかなか目を覚まさなかった。


「ムニャ?……」


「いつまで寝てるんですか。もう、あと30分でクリスマス終わっちゃいますよ」


「ん?……あと30ぷ…………」




「うわぁ! しまった!!」



 ここは、天空の

『サンタの館』……



「うっかり寝過ごしてしまった……あと30分しか無いではないか!」




 クリスマスの準備をあまりに張り切り過ぎて、疲れたせいか仮眠を取るつもりがすっかり熟睡してしまったらしい。


 サンタクロースがクリスマスを寝過ごすなんて、前代未聞の不祥事である。


 今年で定年を迎える最後のクリスマスだというのに……最後の最後で、とんでもない失態をおかしてしまった。


 こんな事が神様に知れたら、どんな罰を受けるかわからない……


「まさか『退職金没収』なんて事は無いだろうな……」


 こうしちゃいられない……なんとか今日中にプレゼントを全部配り終えなければ!



「こうなったら、仕方ない……を使うか……」





 サンタは、緊張の面持ちで隣りの部屋のドアを開けた。




 機械式の時計のフタを開けると、大小様々な大きさの歯車やそれを繋ぐリンケージなどが沢山見える……

 サンタが入っていった部屋は、まさにそんな感じの部屋だった。



「これ使うの、初めてなんじゃよ……うまく作動するだろうか……」


 サンタは、機械の端に突き出している

『L字型』のクランクハンドルを握り締め、せっせと左回りに回し始めた。


 ギイィィィ…



 油の切れた金属の軋む音が大きく響き、巨大な歯車がゆっくりと動き出した。


 天井に映し出されたプラネタリウムが、通常とは逆の方向に動き出す。




 そして地上では……



 街行く人々が、後ろ向きに歩き……

 時計の針は、左回りに回った。



「ヨッコラショ! ヨッコラショ!」



 時計の針は、いつの間にか午後7時30分を指していた。



「これでよし!」





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