第3話 神様なんて


「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ嘘だ! 嘘だぁぁ!」



 メイは、そう叫びながら駅の中へ駆け出していった。



 一体何が起こったというのか……



 電話をかけてきたのは、ある総合病院の看護士であった。





『実は……つい先ほど、吉岡拓さんが救急車でこちらの病院に搬送されて来ました……

 背中を刃物で刺され、大変危険な状態です!

 他県の方だそうで、御家族は到着に時間がかかりそうですので……都内の方で唯一お知り合いは八神さんだけと聞き、御連絡を差し上げました。こちらの場所は………』



 ※ ※ ※





 午後8時

 東京駅山手線ホーム……




 タクは、メイとの待ち合わせ場所に向かう為、山手線のホームで電車を待っていた。




「なんか文句があるのか! オイ!」



 突然の怒鳴り声にびっくりして後ろを振り返ると、サラリーマンらしい2人の酔っぱらい同士が喧嘩をしていた。


 喧嘩の発端の詳細は解らない……おそらくたわいもない事であろう。


 タクも一瞬酔っぱらいの方を一瞥しただけですぐに前を向き、あまり関わらないようにしていた。




 その酔っぱらい達は、最初口論していただけだったが、次第にエスカレートして互いに突き飛ばし合いを始めた。



「てめえ! ぶっ殺してやる!」



 エキサイトした片方の酔っぱらいが、ポケットから『カッターナイフ』を取り出す。




 そして悲劇は起こった。




 カッターナイフを握り締め突進した男は、相手の酔っぱらいに身をかわされ……

 勢い余ってその後に立っていたタクの背中を深く突き刺してしまった。



「キャアァァ!」



 ホーム内は一時騒然となった。


 そばにいた学生風の男が、大声で駅員を呼ぶ。


 ポケットからスマートフォンを取り出して、119番に電話する者もいた。


 タクを刺した酔っぱらいは、その場に呆然と立ち尽くし、駆けつけた駅員に取り押さえられた。





「オレ……があるんだ……」



 タクは、背中を押さえながら2~3歩進んだが、体中の力を奪われたようにその場に倒れ込んでしまった。




 ※ ※ ※




「どうして……」



 目に涙をいっぱい溜めながら、メイは電車に乗って病院に向かっていた。


 明け方の4時までかかって作ったケーキは、もうメイの手元には無かった。電話でタクが病院に運ばれた事を聞いた瞬間に、地面に落としてしまい、拾う気にもなれなかった。




(神様……どうかタクを助けて下さい……)


クリスマス気分で浮かれる電車内でひとり揺られながら、メイはただタクの身の安全だけを祈っていた。


 午後9時20分……




「タクッ!!」



 目の前に病院が見えると、メイは全速力で走った。


 今頃タクは、緊急オペの最中のはずであった。しかし、病院に着くと『手術室』の扉の上の灯りは消えていた。



(タクは?……きっと助かったんだ!)



 おそらく、麻酔が解けるまで処置室かどこかにいるのだろうと思い、タクの居場所を探しにメイが廊下を引き返そうとした時だった。



「八神さんですか?」



 あの電話の声と同じ看護士がやって来た。











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