第2話 メイとタク
12月25日午後8時
東京都渋谷区JR山手線渋谷駅、忠犬ハチ公前……
「きっとキミは来るーーさぁーー♪
2人きりのクリスマスイブ――♪」
毎年クリスマスの度に流れるあの名曲を替え歌にして歌っているのは……
八神メイ……20歳
彼女はこの場所で、ひとりの男性を待っていた。
遠距離恋愛中の彼『
本当は、24日のイブに会いたかったのだが、彼の仕事の都合で今日になってしまった。
「いいもんね-ー♪ 今日だってクリスマスなんだから」
彼女にとっては、そんな些細な事はどうでもよかった。
4ヶ月ぶりに『タク』に会える。それが重要だった。
電話やメールではなく、手を握り……あの笑顔を間近で見られるのだ。
メイにとっては、どんなプレゼントよりそれが何よりのクリスマスプレゼントなのであった。
この日の為にメイは、1ヶ月かけてタクに渡す白いマフラーを編み、ゆうべは朝方の4時までかかってタクと一緒に食べる為の手作りケーキを焼いていた。
「早く8時半にならないかなぁ」
マフラーの入った紙袋を手元でブラブラと遊ばせながら、メイは駅の時計に目をやった。
8時15分……あと15分でタクに会える。
「タクに会ったら最初に何て言おう……
やっぱり『メリークリスマス』かな」
駅前のショップに飾られたイルミネーションの点滅に同期するように、メイの鼓動もトクン、トクンと弾んでいるようだった。
※ ※ ※
「おそ――いっ! もう8時45分だよ!」
約束の8時30分になっても、タクはまだ現れなかった。こんな時は、1分が10倍位に感じられる……
「遅れるなら、電話くらいくれたらいいのに……
でもまぁ、遠くから来てくれるんだから多めに見るかあ。
アタシって優しいなぁ――♪」
メイは、バッグからスマートフォンを取り出し、以前タクと交わしたLINEの履歴を見ながらひとりニヤニヤして時間を潰していた……
♪♪♪♪♪♪
突然、メイの携帯から着メロが流れ出した。
「あっ、タクだ――♪」
それを見たメイの顔がぱっと明るく輝く。スマートフォンの画面には、ハートマークに囲まれた『タク』の二文字が表示されていた。
すぐさま通話ボタンを押し、メイは、電話の向こうからでもわかるような上機嫌な声でスマホに出た。
「遅いぞ――♪タク――♪」
言葉では怒っていても、声のテンションはとても嬉しそうだ。
『あの……そちらは吉岡拓さんのお知り合いの方のスマートフォンでよろしいでしょうか?』
「え……?」
しかし、スマートフォンから聴こえてきたその声は、聞いた事の無い別人の事務的な女性の声だった……
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