リベンジデート ニ

 その言葉に驚いた僕は、とにかく状況を確認する為に、隣に居た坂上に視線を向けた。


 すると、坂上もこちらを見ていて、視線が合うと、坂上は気不味そうな表情を浮かべながら頬を掻いた。


 そうして、視線を女性二人組の方に戻して、「そうです」と、笑みを浮かべながら答えた。


 坂上のその言葉を聞いて、二人組は、「やっぱり!」や「可愛過ぎて、遠くからでも分かったよね!」と、盛り上がり始めた。


 対して僕の頭の中は疑問で渦巻いていた。


 とにかく本人に聞いてみよう。


 そう考えて、坂上に声を掛けようとしたが、二人組の、「前からファンです!」や「テレビに映っている時もお綺麗ですけど、本物はもっと綺麗ですね!」という、勢いがある言葉に遮られてしまう。


 気にはなるが、二人組が去った後に聞く事にしようと仕方無く思いながら坂上と二人組のやり取りを見守っていると、二人組がチラチラと僕の方を見て、気にしている事に気が付いた。


 一体どうしたというのだろう、と不思議に思っていると、二人組の内の一人が僕の事を見ながら、「あのー」と恐る恐るといった感じで、口を開いた。


 ただでさえ坂上が俳優と聞いて混乱しているのに、まさか声を掛けられると思わなかった僕は何を言われるのだろうか、と思い、身体を緊張させた。


「……その、お二人って付き合ってらっしゃるんですか?」


「へ?」


 何を言われるのだろう、と身構えていた僕は、その想定外の質問に、つい変な声を上げてしまった。


 しかし、すぐに先程まで坂上はこの場所で、『カップルに見えるってよ』と、嬉しそうに言っていたのを思い出した。


 その様子をこの二人組が見ていたのなら、僕達がカップルだと思うのは当然の事だろう。


 まさかこの様な事態になるとは想像もしていなかった僕は、これはどう答えれば良いのだろうか、坂上にとってスキャンダルは不味いのではないか、と様々な考えが頭をよぎった。


 どうしたものか、と僕が思っていると、隣にいた坂上が口を開いた。


「実はね、次に撮るドラマの為に練習をしているんです」


「練習ですか?」


 二人組は不思議そうな表情で坂上が言った言葉を繰り返した。


 僕も二人組と同じ様な事を思いながら坂上の事を見た。


 僕の視線に気が付いたのか、坂上と目が合うと、何故かニコッと笑みを浮かべた。


 何故、今の状況で笑みを浮かべる必要があるのだろう。


 そう思った瞬間だった。


 突然、坂上がこちらに一歩踏み出すと、僕の腕に抱き付いてきたのだ。


「坂上さん!?」


 僕が驚くと同時に二人組からは、「キャー」と黄色い声が上がった。


「まぁ、こんな感じで少しでもスキンシップを取ると、顔を赤くして恥ずかしがってしまうから、そうならない為に練習をしているんです」


「成程〜 そうだったんですね」


 坂上の言葉を聞いて、二人は納得した様に頷くと、ニコニコと笑みを浮かべながら僕の方を見てきた。


 これではまるで親に応援されている小さな子どもの様だ。


 僕はいたたまれない気持ちになったが、同時にこの状況を切り抜けるにはベストな対応だという事も頭では理解をしていた。


 後で坂上に文句の一つを言うくらいは許されるだろう。


「という事は、この方も俳優さんだったんですね。確かに格好良いから坂上さんと良いカップル役になりそうですね」


 格好良い?


 今そう言われたのか?


 あまり言われた事の無い突然の褒め言葉に僕がポカンとしていると、坂上はニヤニヤしながら僕の方を見てきた。


「そうなんです。すぐに顔は赤くなりますけど、とってもイケメンなんです」


 僕が上手く言葉を返せないのを良い事に坂上は言いたい放題だ。


 僕はこの場から逃げ出したい気持ちを必死で抑え込むと、「早く慣れる為に練習をしないといけないので……」と言って、さり気無く話を切り上げようと試みた。


「あっ、そうですよね。練習の邪魔をしてしまってすみません」


 僕の言葉の意図を汲み取ってくれたのか、二人組は続けて、「練習、頑張って下さい。応援しています!」と言うと、手を振りながら去って行った。


「モテモテだね。イケメン君」


 坂上は手を振りながら二人組を見送ると、揶揄からかう様な口調で言ってきた。


「……あれをモテていると言うのなら僕は一生モテなくて良いよ」


 疲れた調子で呟くと、僕は坂上に向き直った。


「それより坂上さん。聞きたい事があるから何処かお店に入ろうか」


「そうだよね。そうなるよね」


 坂上は頬を掻くと、「何処に行く?」と、尋ねてきた。


「ここら辺に良いお店があるから、そこに行こう」


 僕はそう言うと、坂上と話をする為に一歩踏み出したのだった。

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