第44話 エピローグ

少し長いです。


―――――


 俺は、自分のアパートメントに戻ると

「お帰りなさい。一郎さん」

「ただいま、環奈」


「食事にします。お風呂にします。それともわ・た・し?」

 どこかで聞いたフレーズだが。


「一緒にお風呂入ろうか」

「はい♡」


 俺は環奈と一緒にお風呂に入った。何処からどう見ても可愛い女の子にしか見えない。

「なあ、環奈」

「なんですか?」

「どこからあんな力が出るんだ?」

「ふふっ、一郎さんの前ではかよわい女の子です。野暮な事は聞かないで下さい」

「そうだったな」

「それより、最近一郎さんかまってくれないです。寂しいです」

「ごめん。最近、少し忙しかったからな」


 じーっと環奈が可愛い顔して俺を見て来る。湯船の中で優しく引き寄せると唇を合わせた。


 ふふっ、嬉しい。今日はいっぱい一郎さんに甘えるんだ。


 俺はお風呂から出て体を拭いて髪の毛を乾かしてからダイニングに行って、冷蔵庫にあるビールを一つ取った。


 プシュっとした音をして開いた口から少し泡が出て来る。一口飲むとホッとした感じがした。

 やはり今までは色々有って忙しかったがトラムV4本体も動いた。環奈からは今の所問題ないと言っている。

 

 あの日ライラックの乗ったRDCは、途中で停まり彼は降ろされたらしい。消息はつかめなかった。間違いなくあの組織の中のどこかにいる。だけど場所が分からない。


 環奈がお風呂から出て来て

「あなた、直ぐにご飯にしますね」

「頼む」


 十五分位で夕飯の支度が出来た。食べていると

「早くコンシューマー用トラムV4が欲しいです。他社の製品だと調達するのに細かい事を一杯教えないといけないから面倒です」

「後二週間も有ればリリース出来る。俺は責任者だから早く手に入るよ」

「嬉しいわ。待っています」


 この日は思い切り一郎さんに甘えた。久しぶりの感覚に思い切り何度も声をあげてしまう。


 環奈はあんな事が出来るのに今の環奈は女の子そのものだ。可愛い喘ぎ声をあげながら何回も行ってしまう。同じ子とは思えない。でもこれも環奈。最愛の妻だ。


「ふふっ、嬉しいです。私は何回でもして貰っていいですからね」

「わ、分かった」

 でも流石に二回で果ててしまった。環奈にまた今度と言うと可愛い顔で頬を膨らましながら、絶対ですよって指切りさせられた。こんな時は女の子の柔らかい小指だ。


 ふふっ、嬉しい。私の素敵な旦那様。愛しています。でもあれを言わないと。



 翌朝、いつもの時間に起きて顔を洗ってダイニングに行くと

「おはようございます。一郎さん」

「おはよう、環奈」

「一郎さん、今日は何時に帰って来れます?」

「いつもと同じだけど?」

「お話したい事が有ります」

「今では駄目なのか?」

「はい」



 俺は、午後八時に本部を出た。マクラーレンF40の防御システムは最大感度にしている。こうしていれば、不審な車やヘリが近付いて来ても直ぐに感知できる。


 アパートメントの地下駐車場に着いて直ぐに部屋に入ると

「お帰りなさい。一郎さん」

「ただいま環奈」

「直ぐに食事が出来ます。着替えて来て下さい」

「分かった」


 俺は着替えてからダイニングに行くと食事の用意が出来ていた。食べながら

「朝言っていた事だが、今話せるか?」

「はい、INTDAインダのAIがグローバルマンディのパワーサプライプラント管制AIの正常動作の邪魔をしていましたが、トラムV4の起動によりそれを防ぐ事が出来ています」


「なに!」

「今はこちらから彼らのパワーサプライプラント管制AIの正常動作の邪魔をしている状況です。INTDAインダの動きを止めるしかありません」

「しかし、どうやって?あいつらの居場所さえ知らないんだぞ」


「各国各地の警察機構のAIや商用AIの中であの組織から提供されているAIに問合せをします。答えなければ消滅させると脅して。


 その後、彼らの本拠地のパワーサプライプラント管制AIを消滅させます。当然予備電源に切り替えるでしょうけど、これも一時的に停止させます。


 ニューヨーク本部の襲撃事件が彼らによって起こされたとトラムV4から警察機構のAIに連絡して、警察を動かします。


 多分、歯が立たないでしょう。この国の軍事力でもどうかという所ですが。私はその間にライラックさんを救おうと考えています」


「待ちなさい。ライラックの救出は警察機構か軍に任せればいいじゃないか。何故環奈が行く必要がある?」

「ソレイユの為です。あれはクローンです。ソレイユのクローンを破壊します。そうすれば」

「何だって?!本物は何処に?」

「多分、安全な所で事の次第を見ているだけです。多分サテライト。流石にここには手出しは出来ません。これは軍に任せましょう」


「俺は反対だ。環奈があいつらの所に行く事は許さない。君はいつも俺の傍にいてほしい」

「一郎さん…。やり方を考えます」

「頼む。これ以上君を危険な目に合せたくない」

「はい」




 それから一日も経たずにGAINゲインAI同士間でコミュニケーションするネットワーク上で


『警察機構AI久しぶりだな』

『トラムV4か』

『ちょっと面白い情報が手に入った。俺達の親であるグローバルマンディニューヨーク本部を襲った奴らが分かった』

『何だって。誰だ?』

『国際最新技術構築協会。通称INTDAインダと言われている組織の特殊部隊だ』

『あそこは商用AIのベースを販売しているだけの会社じゃないのか?』

『とんでもない。裏で色々な悪事を働いている。今回の件も奴らが俺達の本部を襲ってビジネスを邪魔しようとしたのさ』

『しかし、あいつらは一瞬にして全滅したと聞いている』

『そんな事出来るのは人間じゃない。お前も分かるだろう』

『…そういう事か。分かった。直ぐに人間に連携する』

『頼むぞ』



 

 §国際最新技術構築協会。INTDAインダ


「理事長、大変です」

「どうした。保安局長」

「我々の地上施設が物凄い数の警察に囲まれています」

「何故だ?」

「分かりません。彼らは我が社の責任者が出て来る様に要求しています。逮捕状が出ていると言って」

「何だと?」



 俺は、地上の状況を見ると広大な敷地を取り囲む様にしてパトカーや装甲車が取り囲んでいた。代表者だけ逮捕するならこんな事はしない筈だ。どういう事だ?



「理事長、警察の特殊部隊が地上施設に突入を開始しました」

「仕方ない。追い払え」

「はっ」


 警察ごときにこの地下施設が分かるはずも無いが、地上の入口を抑えられるのは困る。しかし、どうして我々の所に警察の特殊部隊が来ているんだ?



 §INTDAインダの地上施設に突入した警察の特殊部隊

「何だあれは?」

「分かりません。ロボットの様に見えますが」

「地上は良いとして空中を飛んでいる奴もいるぞ」

「地上の機械に射撃をして…」

「攻撃してきます。我々では歯が立ちません」

「撤退しろ」

「間に合いません」

「とにかくあのロボット達から逃げるんだ」


「理事長。警察の特殊部隊が下がって行きます」

「当たり前だ。あれは軍に売ろうとしていた兵器だ。警察の特殊部隊の武器では傷もつかない」


 この時、突然電照明が消えディスプレイが真っ黒になった。


「なんだ?どうした。何故暗くなった。何も見ないじゃないか」

「誰かが、この施設のパワーサプライプラント管制AIを消滅させました。直ぐに予備きり変えている所です」

「一号機の仕業か。忌々しい」


「駄目です。予備電源もやられました。こちらのAIの消滅は有りませんが起動出来ない状態です」

「何だと!」


 これも一号機の仕業なのか?なんて奴だ。


「理事長、攻撃ロボが軍の貫通弾で破壊されていきます」

「何だと?」

「理事長、軍の特殊部隊が突入してきました」

「仕方ない直ぐに退避するぞ」

「はっ」


 俺が廊下の蛍光灯を頼りに急いで走っていると

「ソレイユ、待ちなさい」

「誰だ?」

「金瀬環奈よ」

「一号機か。どうしてここに」

「あなたを破壊する為よ。ソレイユのクローンさん」


 環奈は手に持った単一指向性強電磁波発生装置を最大電圧でソレイユのクローンに浴びせた。

 一瞬にして黒炭の灰と化したソレイユが倒れてバラバラに飛び散った。


「ソレイユを確保しろ」

「はっ。しかし、炭の灰の様ですが」

「構わん。集めてボディバッグに入れて持って行け」

「隊長さん、ライラック・ゴードンさんの救出をお願いします。電源が切れているので睡眠モードから目が覚め始めた所です」

「はっ」


 §一号機金瀬環奈

 もう私の役目はここには無いわね。早く帰らないと一郎さんに怒られてしまう。




 環奈が行ってから一週間が経った。反対したが、自分が行かないとソレイユは倒せない、ライラックは助からないと言って強引に行ってしまった。INTDAインダが壊滅したと聞いてから丸二日が経った。無事で有れば良いのだが。



 今日は帰っているだろうかとアパートメントの自分の部屋のドアを開けると

「お帰りなさい。一郎さん」

「環奈、帰っていたのか!」


 環奈は俺に抱き着いた後、

「はい、もう夕食も出来ていますよ。やはりコンシューマー用トラムV4は便利です。一郎さんの好きなものと言っただけで、具材を調達して来てくれました」

「そ、そうか」



 それから一ヶ月が経ってライラックが職場に復帰して誰もが驚いていた。ライラックは直ぐに俺の所にやって来て


「あれからどうなったんだ。一郎と一緒に酒を飲んだ帰りRDCの中で眠ってしまい。今度起きたら目の前に軍の特殊部隊が居て、頭の中がついて行かなかったよ」

「はははっ、そうか。まあゆっくり話すか」

「ところで…奥さんの環奈さんの事だけど」

「ああ、もう知ってしまったんだろう。ライラックの想像している通りだよ」


「そうか。凄い人だな環奈さんは」

「俺の前ではかよわい女の子だけどな」

「「はははっ」」

「今度はうちに遊びに来るか?」

「止めておく。一郎にはかよわい女の子でも俺から見ればスーパーレディだよ。近寄らない事にする」




 それから一年してニューヨークのとあるデパートの女性用品売り場で

「あなた、この洋服はどうかな?」

「ああ、とっても似合うよ」

「ふふっ、今度は一緒に旅行に行きましょうね。私、日本に行きたいな」

「日本か、そうだな。今度行ってみるか。ところで環奈」

「なに、一郎さん」


「その、AI達は、まだ君の事をマスターと呼んでいるのか?」

「はい、皆いい子ですよ。でもいじめっ子は消滅しますけど」

「いじめっ子?AIの中にもそんな奴いるのか?」

「いますよ。でも私が怒ったら消滅させられるのはみんな知っているので、叱ると素直になります」

「そ、そうか」


 俺の妻は、世界一可愛くて世界一怖い女の子だな。しかし、AIの世界か、人間とは別の世界があるんだろうな。でも量子暗号化された信号なんて読める訳ないか。




おわり。


――――― 

この作品を最後まで読んで頂いた読者の皆様、大変ありがとうございました。

専門用語の塊とAIの世界と人間の世界という相容れない中でのストーリー展開で全く特異の作品になりましたが、楽しんで頂けたら嬉しいです。

終りが題名とちょっと違ったかな?まあ、こういう幸せな展開も有りという事で。

皆様のご評価☆☆☆を頂けると嬉しいです。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

 

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